木づかいのコツ 交差木材の構造部材 – 『月刊住宅ジャーナル』2018年11月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2018年11月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal-1811d1.pdf )。

新連載 直伝 木づかいのコツ 交差木材の構造部材

第2回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 月刊住宅ジャーナル ]
前回は、木材を直行させた際に生じる変形の問題とその対策について、最新の木材であるCLTや無垢材の玄関ドアを例に出しながら論及しました。

[ 守谷 ]
ところで反響はどうだったのかな。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
おかげさまで好評です。初回からアクセル全開じゃないのかというご意見まで頂きました。

[ 守谷 ]
最近は色々縁があって、大手ゼネコンの設計担当者や材料仕入れの責任者から相談を受けることがあってCLTの話題にもなるんだよ。今まで木造の設計をしたことのない設計者からすると木材なのにCLTにすると重量がえらく重くなって、その割には横の強度が弱くて使いにくいと困っているし、俺からすれば木材の変形に対する対策が納得いかないんだ。
そこで、木材を交差させても、変形にしっかり対応できる構造部材を守谷建具で開発した。この構造体の体積の9割は空気だ。大手ゼネコンにはこんな壁や床を使えば大丈夫だと勧めている最中だ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
これは一見すると、組子(くみこ)のようにも見えます。いや、組子よりもずっと大きいですね。

[ 守谷 ]
合板に張って、木質の構造体にするものと、コンクリートに用いるものと二つを用意した。これは合板パネルとして用いるものだ。
普通に木材を90度に直交させて合板に張ると、水分を吸って木目方向が出っ張ってくる。サブロク(3尺×6尺)サイズなら3mmから4mmは木目方向が出てくる。そこで角度を変えて、45度よりも鋭角で斜めに交差させる。こうすると木材が外に伸びてこないようにすることができる。こうすれば強度が上がり、端材を利用することもできるようになる。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
筋交いや組子といった在来工法や伝統建具で用いられてきた材料にもこうした木材の変形に対応する知恵や工夫が隠れていたんですね。

[ 守谷 ]
柱や梁だってそうだ。今じゃ乾燥剤が増えて背割り材を見なくなったが、背割り材だって柱材が割れるのを防ぐためにはじめから割れをつけることで、木が水分を出して割れないように、はじめから遊びの余地をつけてたわけだ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
背割り材を上手くに使える大工さんや設計士さんが少なくなっていることは残念ですね。

[ 守谷 ]
この合板パネルを製作する際の注意点としては、耐水性酢酸ビニールの接着剤を密着させることだ。表面を蛇腹状に研磨することにより、接着剤表面積がおそらく想像以上に大きくなり、接着剤に柔軟性が出てくる。ワイドサンダーで40番から60番くらいの面がいい。守谷建具では内部建具の杉・桧の集成でもこうやって加工してるよ。外の畑に5年くらい放置しても変化はないよ。
それから両面に接着剤を塗ってから貼る。鋭角の巾剥(はばは)ぎ材と同方向になるので接着剤の表面の疲労が起きにくくなる。CLTの理想の組み合わせは、鋭角の巾剥ぎ材を交互に接着することだ。他にも様々な方法があるが、自分の経験からが最善だと思う。こうすると水に1ヶ月漬けてからハンマーで叩いてもはがれなくなる。
前回も説明したように最近の集成材は、木ではなく接着剤に無理を負担させているから、理論的には航空機の部品の金属疲労のように木材との接着面に疲労が起きるはずだから、使う側は注意することが重要だ。
数年前に山車の車輪を製作したことがあって、ワイドサンダーで表面を研磨して耐水性のポリウレタンの接着剤を使って貼って、試しに川の中に一ヶ月漬けてみたら変化はなかった。詳しくは守谷建具のホームページでU-tube(ユーチューブ)の動画で掲載しているので観てほしい。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
こちらの構造体は何でしょうか。

[ 守谷 ]
これはビルのカーテンウォールに使うコンクリートと組み合わせた構造体だ。これは守谷建具と富士セメントで共同開発した。鉄筋コンクリートじゃなくて「木筋コンクリート」という名称だ。特許を出願する際に、弁理士から聞いた話だが、戦争中には鉄筋が不足していて、鉄筋の代わりに竹を入れたコンクリートの建築物で特許をとったものがあったそうだ。それを「竹筋コンクリート」と呼ぶなら、これは「木筋コンクリート」になる。
コンクリートと木というのは、異素材だと思うかもしれないが、コンクリートは強アルカリ性なので、木はアルカリが入ると強くなる。
コンクリートを木材を密着させるために自動かんな盤のような凸凹のローラーを使って木ごろし( * )をする。こうすると水分を吸いやすくなる。コンクリートの水分を吸うことにより、凹凸になり、密着させるんだ。この試験体では鉄筋も一緒に入れて90度に曲げることで強度を出している。中芯が鉄で外側が木材だから、鉄筋が膨張することによる爆裂(パンク)が置きにくい。
メリットとしては、鉄筋よりも軽量化できることだ。特に木材を金属とコンクリートの代用として使用できるようになる。次世代の木材の応用技術開発になるというわけだ。

* 木ごろしとは?
木材を叩くことなどにより、木材の性質を変えることを木ごろし(木殺し)と呼ぶ。守谷建具では、木製ドアを製作する際に、木材の接合部を金槌で叩いて木ごろしをすることで割れを少なくするなど、様々なきごろしをする。


材料を斜めに交差させた構造体(合板パネル)

斜めから見たところ

杉桟を斜めに交差して貼る

守谷建具の畑 木材や建具をあえて屋外曝露する

背割り材

背割り材を使った躯体

筋コンクリートを共同開発

自動かんな盤の送りローターで木ごろしする

木づかいのコツ CLTに異議あり – 『月刊住宅ジャーナル』2018年10月号掲載 – CLTは内部で膨張・収縮を繰り返し自壊する

CLT(杉を交互に重ねて接着した集成材)は湿度の影響を受け、CLT内部の構造の中で膨張・収縮を繰り返し自壊します。木材は方向により膨張・収縮の大きさが違うためです。

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2018年10月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal-1810d1.pdf )。

新連載 直伝 木づかいのコツ CLTに異議あり

第1回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

連載趣旨
循環型資源である木材の理由にあたっては現場で培った経験と科学的見地に基づいた知識が欠かせない。職人の減少に歯止めがかからない状況の中、本誌では、木材加工において豊富な経験と知見を持ち独自の理論を展開している守谷建具の守谷和夫代表に、木の使い方を主なテーマに洗いざらし質問する新連載をスタートする。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
近年は国の推進もあって、木材の利用をより意識的に進めようとする動きが活性化しています。守谷さんはどのように見ていますか。

[ 守谷 ]
最近では、俺達の世代が持っている木材の知識や経験じゃ、理解できないものが出てきたな。特に、CLTには驚いているよ。CLTってのは、要は杉を交互に重ねて接着した幅はぎ材(*)のことだろ。あれで、問題を起こす業者もかなりいると思うよ。
* 集成材の意味。建具業者は自社で接着して作る。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
問題といいますと…

[ 守谷 ]
建具の業界でいう『パンク』と呼んでいる現象が起きるんだ。つまり木が反り返ったり、膨張や収縮を起こして壊れてしまうんだ。日本の板目の杉は、乾燥と湿気に対してとても敏感なんだ。建具屋では、タモ・杉・桧(ひのき)の集成材をよく仕入れるけど、既製品を仕入れてから4〜5日しておくと、表面が木の収縮で凸凹(でこぼこ)してくるからワイドサンダーで研磨し直すんだ。だいたい8分(24mm厚)から1寸(30mm厚)のは出るよ。集成材は7〜8%まで乾燥させているそうだし、巾(はば)剥ぎ方向が長い上に、CLTだと縦方向・横方向に交互に張るから相当ずれるだろう。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
守谷さんは、新しい材料を建具に用いる際には、すべて自社で試験体を作って実験してから、使うそうですが、CLTのような交互に重ね合わせる幅はぎ材についても自社で実験されたのですか?

[ 守谷 ]
もちろんやってみたよ。和室の鴨居(かもい)によく使う120mm×厚み45mmの杉の材料を使って試験体を作ってみた。含水率を約2%に落とした4寸の2.2尺(670mm)の板を使って、削って厚み40mmにして、16枚積み重ねて、接着剤は使わずに、1枚につきダボ(直径10mm、長さ50mm)を2本ずつ入れて、両側に64本のダボを入れた。これで一年間放置しておりたら、ダボがみんな折れてしまった。
なぜそうなるかというと、杉の板目は湿気と乾燥に敏感だからだ。木材は横方向・長さ方向は収縮がないが、幅方向はすごいあるから、幅方向に引っ張られる。縦方向は伸びないけど、横方向は伸びる。ぬれると幅方向に伸びて、雨がふると外部のパネルの継ぎ目は毛細管現象を起こして、横はぎの方に水を吸い込んでのびる。例えていうと自動車がカーブで曲がる時の内輪と外輪の関係と同じだ。同方向に接着すると、同方向の板に関しては幅がほとんど変わらない。つまり、接着方向を同じ方向にはるとお互いの木材がついていくけど、縦横交互にはると互いの木材がついていかないわけだ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
それだけ木が変形すると、接着剤の選択も難しいですね。

[ 守谷 ]
木材の変化についていく接着剤がいい。酢酸ビニール系の接着剤は、湿気があると収縮性があるから木材の変化についていく。うちじゃ、酢酸ビニール系の耐水性の強いボンドだけを使ってる。普通の建具屋が使うボンドの3倍くらい価格がするけど、水に漬けた後に金槌で叩いても剥離しない位強力な接着剤だ。接着面が柔らかいというのがいいんだよ。木の変形追従できるんだ。硬化してしまうタイプの接着剤だと、木の変形に追従できないから、時間がたって伸縮が繰り返されることで接着剤に疲労がおきるんだよ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
守谷さんは、建具づくりにも木の変化に追従できる接着剤を使っているんですか。

[ 守谷 ]
この間の田園調布の玄関ドアにも使ったよ(*)。これは難しいドアだった。加工よりも理論的にも難しかった。なぜかって。そりゃ、普通にこういう中桟なしの一枚板のドアを作ったら、ドアが垂れるに決まっているだろ。蝶番をいくら強いものにしたってドアの重さで垂れ下がってしまうから使えなくなるんだ。
* 2018年9月号P42記事参照

[ 月刊住宅ジャーナル ]
お寺や立派な門構えの家では一枚板の唐戸の開け閉めができなくなって、勝手口から出入りしているのをたまに見かけますが、ドアの垂れは怖いですね。

[ 守谷 ]
垂れをどうやって防ぐかが大事なんだ。まず、ドアの真ん中の板は木の割れを防ぐために、5mmの耐水合板で両面から秋田杉を耐水性の酢酸ビニール系の接着剤ではって、去年の暮から倉庫の2階に4ヶ月ほどすっぽっといてからカットした。4ヶ月放置したのは、はじめに内側の耐水合板と外側の杉の収縮がどれくらい違うか調べたかったからで、やってみたらズレがなかったから使うことにした。
接着するときに接着面の両面に接着剤を塗るか、それとも片面だけに塗るかということも難しいんだけど、ここでは合板に2回塗る。板に塗ると板が伸びてしまうので板には塗らないでプレスする。
それからホンデュランスマホガニーを両面から継いで溝をついてぴったり遊びなしで入れて、ねじで留めて完璧な一枚のパネルにしてから、上桟・下桟のダボをギリギリにしていれた。上桟・下桟の角には養生テープをはってから1ミリ位の遊びでシリコンのコーキングを注入した。枠やパネルが伸び縮みして動いてもいいように、膨張分の遊びが必要になる。それをシリコンのコーキングが収縮分の遊びをつくってくれるので、木が収縮して動いたときにシリコンも収縮するようになる。そこまで木の動きを読んでから現場に納品したというわけだ。
ここでの耐水合板のパネルは木の割れを防ぐ筋交いの役割を果たしていて、木の収縮分をシリコンで受けているという構造だ。

膨張・収縮による力を逃がすドア・建具の特殊構造

無垢材を使った扉で最も多いクレームが扉の膨張・収縮による開閉の不具合です。
従来、無垢材を使った框組扉はホゾ組みと呼ばれる方法で製造されて来ました。ホゾ組みは一般的に強度が増すとされているからです。ところが板目材を使用し框組扉を製造すると、年輪が少ないため強度がなくホゾが割れる、組み立ての際にねじれが発生するなどの問題が生じます。そのため、弊社では板目材を框として活用するするためにダボによる製造方法を採用しています。

膨張・収縮による開閉の不具合を抑えるために、パネル板を木表、木裏に交互に組み、さらに一枚一枚を独立させて固定することにより、材料それぞれの変形が扉全体の膨張・収縮に影響を及ぼさないよう下記のような構造を採用しています。


扉内部構造(扉右上部のみ)
杉無垢ドアED-2図面.pdf へのリンク



結合部のダボの配列

板目材の反り・ねじれ対策

板目材を反り・ねじれの少ない材料に

弊社の扉は框、桟、パネルに本来扱いの難しいとされる板目材を使用しています。手間と時間をかけた材料管理と、木が一本一本持っている癖を応用する独自の製造方法により、板目材を反り・ねじれの少ない材料に生まれ変わらせます。

板目とは
年輪の目に沿うように接線方向に切り出した板の表面に現れる木目を板目と呼びます。板目の板には裏表があり、切り出しの際に外辺部側に面していた方が木表、中心部側に面いていた方が木裏となります。板目の材は収縮・変形し易い傾向があり、また木裏に比べ樹齢の若い木表は水分移動が早いため収縮が大きく 縮み易く、割れ易くなります

ウィキペディアより引用

反り・ねじれを低減させるための材料管理

このように扱いが難しいとされる板目材を反り・ねじれの少ない材料として生まれ変わらせるために、次のような方法を採っています。通常木材は山から切り出した後に製材し、機械による人工乾燥を行い市場で販売されます。

  1. 製材
  2. 人工乾燥(含水率15~20% 7~10mm程度の反りが発生する)
  3. 私設市場にて材料購入
  4. 1年間、屋外で雨を避けて桟積み乾燥(反りが発生)
  5. プレーナー(自動手押しカンナ)にかける(反りを削ってまっすぐにする)
  6. 節の多い材料は、節が目立たないように中央で割り、両面が木表になるように接合する。(下記「反り・ねじれを低減させるための加工方法」参照)
  7. ひと夏屋内の資材置き場にて乾燥(昼:屋内温度約70℃←→夜:屋内温度約30℃を3ヶ月間繰り返す)
  8. プレーナー(自動手押しカンナ)にかける(反りを削ってまっすぐにする)
  9. さらに屋内にて乾燥(1~2ヶ月 0~1mmの反りが発生する)
  10. 勝手をつける(材料一本一本の性質を見極め適材適所に振り分ける)
  11. 反りにくい板目材になる(扉を作る材料となる)

反り・ねじれを低減させるための加工方法

木には目のばらつきや節の入り方など、一本一本に癖があります。その癖を見極め、材料によって加工方法や使用する箇所を決定します。そうすることで材料の無駄なく利用することができます。

また、こうした加工によりどれだけ反り・ねじれが低減されたかを確認するため、我社では実際の室内よりも厳しい環境を人工的に再現し、材料や構造の化学的検証を進めています。
環境試験による検証.pdf へのリンク

  • 例)節が少なく、目の通った材料では、無垢材のまま、廊下側が木裏になるように製造する。

    [ 框材を上から見た図 ]
  • 例)節の多い材料では、真ん中で割り、反りの程度を確認しながら、張り合わせる。

    [ 框材を上から見た図 ]