木づかいのコツ 不燃木材への挑戦 4 – 『月刊住宅ジャーナル』2019年08月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2019年08月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal-1908d1 )。

新連載 直伝 木づかいのコツ 不燃木材への挑戦 4

第8回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 月刊住宅ジャーナル ]
今月号では、いよいよ不燃材の製造技術についての話となります。

[ 守谷 ]
今までの復習をすると、不燃材で多い製造方法は、白太(しらた)に薬剤を含浸させる技術であるわけだが、デメリットがある。守谷建具では、過去にこのような技術を考えてきた。

  • パラフィン乾燥の応用技術(2012年特許)
  • フリーズドライの原理の応用技術(97年日本木材学会発表)

しかし、これらの製造方法は、不燃材の製造に応用しようとするとデメリットがある。一番良い含浸方法は減圧と加圧を同時に行う方法だ。

  • 多孔質木材の製造方法・加熱加圧を同時に行う製造方法(2008年国際特許)

加熱・加圧の製造方法の概要については、以前、ジャーナルで紹介した通りだ(住宅ジャーナル2008年6月号参照)。この製造方法については、本当にこれで製造をしたい人に任せたいと思っている。
フリーズドライの原理については、今まで説明してこなかったから、ここで紹介する。フリーズドライの原理というのは、真空状態で氷を気化させることだ。凍ることで多孔質に水分を蒸発させる。これがフリーズドライになる。だからフリーズドライは天ぷらみたいに穴だらけになる。フリーズドライの昔ながらの例としては凍み豆腐(高野豆腐)がある。お湯をそそぐとカップラーメンのように具が元に戻る。
杉の白太がくさりやすい理由として、空気と水がいっぱい入りやすいということがある。生木だと体積の90%が水分と空気で、生木を製材した状態でも50%〜70%が水分だと思われる。杉の場合は、空気の割合が正確に測定すると、おそらく90%で、木材の細胞の割合が10%ほどになる。
多孔質にするには、体積の50%〜70%の水分を瞬時に帰化させるといい。それが天ぷら乾燥の技術で、守谷建具が開発した木材の加熱・減圧の多孔質加工の技術になる。50%の水を空気にすると約1300倍の体積に代わるので、勢いよく泡になって出てきて細胞をこわすわけだ。これが水蒸気爆発だ。
富士山は気圧が低いから80℃でも沸騰する。真空だと氷も気化するから、温度を130℃〜150℃くらいにして真空にする。真空にすれば130℃の温度だ。乾燥剤でも多少の水分が勢いよく気化する加熱・減圧の原理となる。
木材を130℃に加熱して、空気を膨張させてひっぱる。そうすると空気が0に近くなる。
だから、加熱してから、減圧を行う。減圧で引っ張って空気を抜き、加熱で膨張させて空気を膨らませる。これを同時に行うことで空気を抜くというやり方だ。
この原理としては論文で発表したことがあるから、詳細はそちらを読んでほしい*。
この発表のきっかけは、今から20年前に奈良の木材研究所にサンプルをもっていったことがきっかけなんだ。4寸角2mの木材に不燃材を含浸させて持っていったら、ライトバンからおろそうとしたら、不燃薬剤で重くて木が下ろせなかった。研究者も驚いて、後で学会で発表するからという話になって、うちの地元の埼玉の試験場で試験をしたんだ。
この製造法は、メリットとデメリットがある。
一番のメリットは細胞が破壊されることにより強度が増すことがある。普通に考えると強度が損なわれると思われるが、実際は強度が増す。木材がスポンジ状になっているので液体はしみこみやすくなる。
デメリットは水分を吸収しやすくなるので、改質木材以外には使用できないことだ。特に常時湿気の多い場所での使用には注意が必要だ。結果的には木材が腐敗しやすくなる。ばい菌が入りやすくなるわけだ。

不燃化のまとめ

[ 守谷 ]
最後に植物性の不燃化について、自分の実験と経験をまとめてみたので、参考にしてほしいと思う。
濃度としての一番の条件は、不燃化濃度10%以下が絶対条件だ。木材もそうだが、特に和紙・紙類などで濃度が10%以上になると商品価値が劣る。
製造方法としては、木材も紙類も同じと思っていいだろう。順番に挙げてみると、

  1. 物質を多孔質にすること。
  2. 物質を絶乾状態にすること。
  3. 真空に近い状態にすること。加熱を同時にするといい。
  4. 不粘液を50℃ぐらいに加熱し真空状態で器に注入する。
  5. 加圧する。できれば真空と加圧を同時にすれば良いが、技術的に困難である。
  6. 器から出した木材は低い温度での乾燥が良い。

特に注意する原理として、乾燥剤は、減圧・真空にすることにより、木材の表面温度が急激に下がり、常温の不燃液では結晶が起こり、目詰まりが始まる。和紙の実験では、不粘液の濃度5%で不燃状態で炭化する。4%では炭化はするし、試験体によっては炎も見られる。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
不燃材の製造の方は、これで終わりということになります。
読者の方からも多くの感想をいただきまして、新しいアイディアが一体どこから出てくるんだろうという声が多くありました。聞いている私にとっても、まるで、目の前のトトロの森(狭山丘陵)からこんこんとアイディアが湧いてくるようでした。
(次号につづく)


杉材の細胞壁孔の膜を破った状態

 

*第47回日本木材学会大会研究発表要旨集(1997)「加熱一減圧処理による木材の透過性改善」

木づかいのコツ 不燃木材への挑戦 3 – 『月刊住宅ジャーナル』2019年07月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2019年07月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal-1907d1 )。

新連載 直伝 木づかいのコツ 不燃木材への挑戦 3

第7回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 月刊住宅ジャーナル ]
前回は、不燃木材の一例として、ホウ酸を原料とした不燃材の特徴と注意点について紹介しました。これまで硫安やホウ酸を原料とした不燃木材について追ってきまして、性能面においても、製造コストにおいても優位性があることがわかりました。これらを一定の品質で大量に生産するには、どのようにすればいいのですか?

生産性の高い製造方法
[ 守谷 ]
去年の朝の連続ドラマで、チキンラーメンの創業者の話があったろ。あのドラマを観ると、不燃木材を製造するためのいいたとえがあるんだよ。
まず、不燃木材の生産性が低くてコストが高止まりの要因は何かということから考えてみる。
一番の要因は、乾燥技術だ。一般的な不燃木材は含水率15%~25%ほどの普通の製材を使っている。これではだめなんだ。普通の木材にいくら薬剤を含浸させようとしてもなかなか入らない。
なぜ入らないかということは、この連載の第3回目(1月号6頁)で勉強した通りだ。杉には赤身と白太があって、赤身には、壁孔に膜がついてふさがっている。この弁は簡単には開くものではないから、赤身には薬剤が含浸していかない。だから、不燃木材を製造する業者は、白太だけを選び出して含浸させようとするから、木材のコストがアップするんだ。
薬剤を白太に含浸させるだけなら、とにかく木材の含水率を下げて0%~3%にすると、薬剤がしみこむ。
では、含水率3%まで木材を乾燥させるには、どのような技術を使えばいいかということだ。既存の高温乾燥技術ではだめだ。赤身は(芯材)は劣化するが、壁孔は破れないんだ。

木材でチキンラーメン
[ 月刊住宅ジャーナル ]
高温乾燥材は、今から10年近く前に内部劣化が問題になって、木造住宅での利用が減少し、集成材のシェアが拡大したという経緯があります。

[ 守谷 ]
あれは、木材の熱質量に関する基本的な知識不足が原因だ。木材の研究者は熱力学の基礎なんて普通は勉強しないからな。
例えば、100℃のサウナに入っても火傷しないのに、ホッカイロを腹につけていると、なぜ低温やけどをするか説明できる木材の研究者がどれだけいるのだろうか。
ホッカイロの原料となる鉄の比重は約5だ。水の比重が1だから5倍の熱を蓄える力(熱質量)がある。だから、すぐに火傷する。サウナの空気の比重は0なので、熱をたくわえないから火傷しない。
木材を高温乾燥すると真ん中の熱質量が高くなるから、内部気圧が高まり、圧力釜と同じ原理になって劣化する。木材は、仮比重で0.3 ~ 0.4。水は1。空気の比重はゼロだ。ところが木材は、空気の部分を除くと、仮比重0.3 ~ 0.4からセルロースの実質比重の3に近づいてくる。木材に対して比重の低い物質で熱すると内部と外部のムラができる。だから、高温乾燥に内部劣化の問題も起きてくるというわけだ。 (注1)
熱を均質に伝えるための解決方法としては、水分と同等に近い比重の液体を選ぶといいということだ。
熱を均質に伝える例として、石やきいもがある。石やきいもは、比重の高い石を使うから、時間をかけていもの中の水分を均質にとばしてホクホクにする。だからうまい石焼きいもができる。
もう一つたとえになるのが、最初に言った朝の連続ドラマのチキンラーメンだ。あれは油で乾燥させる「天ぷら乾燥」技術だ。高温の油で水蒸気爆発を起こす技術だ。ただし、油は引火して燃えやすいから、食品はいいとしても、木材製品の乾燥には使えない。
もう一つ、より安全な技術として用いられているのが、パラフィン乾燥の技術だ。ここでは油の代わりに蝋(ろう)をつかう。油と蝋は同じようなもので、引火しにくいメリットがある。ロウは水よりも比重が高くて100℃でも焦げない。外の比重に対して内の比重が少なくなって差がなくなると、爆発的に内部の水分を気化して外に出す。これがパラフィン乾燥の原理だ。
木材をインスタントラーメンのように乾燥させれば、木材が孔だらけになって、3分でできるインスタントラーメンのように、不燃薬剤がしみこみやすくなる。
これらと同じ原理を使えばいい。溶けたロウの中に木材を入れると、危ない、すべる、燃える、と危険だらけだから他の材料を使う。加熱ができて、水分と相性の悪い液体がいい。そうすると天ぷらと同じ原理で、比重・熱質量が高い材料で乾燥させて木材をインスタントラーメンのようにすることができる。
つまりは、木材の細胞の中で水蒸気爆発を起こさせればいいということだ。フリーズドライと同じ原理、つまり加圧で真空にしても、同じことになる。
それでは、どのような機械を使ったら、この天ぷら乾燥の技術を木材乾燥に応用できるのか。次回で画期的な技術を提案してみたい。
(次号に続く)


杉材の細胞壁孔

細胞壁孔は膜で閉じられている

杉材の細胞壁孔の膜を破った状態

 

注1: 内部劣化のメカニズムについては様々な説がある。本誌では守谷氏の説に基づいている。

木づかいのコツ 不燃木材への挑戦 2 – 『月刊住宅ジャーナル』2019年05月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2019年05月号で紹介されました。以下に転載します。
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新連載 直伝 木づかいのコツ 不燃木材への挑戦 2

第6回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

 

[ 月刊住宅ジャーナル ]
工場の隣のご自宅が新しくなりましたね。

[ 守谷 ]
自宅をリフォームしてるんだ。寒い家だったから、ずいぶんあったかくなったよ。自分で作った建具も入れようと思ったんだけど、仕事の方が忙しくて少ししか入れられなかった。玄関のドアは一枚板で取っ手は木。取っ手は海でひろってきたもんだ。海辺に行くと本当にいい流木が落ちててドアの取っ手にぴったりのがあるんだ。もちろん全部タダだ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
工場も片付け中ですか。

[ 守谷 ]
30年ぶりの大掃除だ。入らない端材を片付けて、選びに来るお客さんが見やすいように無垢の一枚板を150枚並べている最中だ。
だが、守谷建具でもついに値上げすることになってしまった。プロ向けは今までと同じで変わりないが、単品注文が多い一般のお客さんには、相談料を設定することになった。一般のお客さんだと、相談する時間が製作する時間よりも長くなってしまうこともあるから、相談料を設けないことには、忙しくてどうにもならないんだ。

 

不燃・防蟻・放射線対策

[ 月刊住宅ジャーナル ]
本題に入ります。前回は、不燃木材の一例として、硫安を原料とした不燃材の特徴と注意点について紹介しました。その他の原料でもよいものはありますか?

[ 守谷 ]
不燃木材の原料としては、もう一つ、ホウ酸というのがあって、これは優れた特性をもっている。守谷建具でも実験をしてきたが、一つは不燃、もう一つはシロアリ対策、さらには放射線から身を守る、という3つの機能がある。ホウ酸は、住宅分野では、シロアリの予防用の薬剤として、住宅の基礎用のシロアリ対策の保護塗料に用いられたり、セルロースファイバーという新聞紙を原料とした断熱材にも含まれている。だから、シロアリの予防になるということは業界ではすでに広く知られている。
守谷建具で実験に特に力を入れたのは、放射線の遮断対策効果だ。ホウ素系物質は、原子力発電所の燃料棒を囲っている器にも用いられている。2011年の東日本大震災の後に、大学の先生に依頼して公的試験期間で実験してデータを取得した経緯がある。守谷建具で独自の配合を行って木材に注入すれば放射線による被爆を予防できる効果があることが分かった。試験ではプラスターボードを使ったが、後で外装用にコンクリート板や、釘打ちしやすいゴムとコンクリートを合成したボードを開発して、同等の結果が出せるようにした。このようにホウ酸を使えば、
国産木材を不燃、防蟻、さらには放射線の遮断機能を備えた多機能木材に変えることができる。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
住宅分野の業者の方は、ガンマ線(セシウム137の放射線)に関する知識はおそらくゼロかと思われますが、鉛重金属と同等の放射線遮蔽能力を持つ塗装建材の製造が可能であるということは画期的なことなので、ぜひ記憶にとどめておいてほしいですね。

 

製造コストの優位性

[ 月刊住宅ジャーナル ]
製造コストとしては、木工業者の方が作っても、採算のとれるものなのでしょうか?

[ 守谷 ]
製造コストについては、ホウ酸は粉体で1キロあたり200円ほど、ホウ砂は粉体で1キロあたり150円ほどになる。水を無料と仮定して製造コストを考えると、これを10%の濃度にすれば、15円ほどになる。7%にすればリッターあたり10円ほどで販売できる。守谷建具ではリッターあたり7%の濃度で、硫安やホウ酸で風合いの良い和紙に不燃化できる製法の開発に成功した。つまり、1000リットルで1万円、1立米で1万円と、低コストで製造が可能になる。

 

内装分野の課題 認定問題と白華現象

[ 月刊住宅ジャーナル ]
ホウ酸は、内装の不燃材の用途ではあまり用いられていないようです。課題は何でしょうか。

[ 守谷 ]
2011年に大臣認定の不燃材が試験データと異なる仕様で不適合になったことが影響としては大きい。認定を取り直しても、設計士から採用を断られるケースが多くなってしまった。
内装向けの用途が難しい理由としては、取り扱いが難しいこともある。まず水に溶けやすいことが最大の弱点だ。特に白華現象といって、木の表面にホウ酸が白く浮き出てくる現象が起きてくることがある。せっかく採用されても、これでクレームが出て部材交換になってしまったら、一発で取り消しになってしまう。
守谷建具では、白華現象の出ない製法の開発に成功している。水とホウ酸・ホウ砂の化合物を1:1に混ぜて80℃の熱湯にするときれいに溶ける。それをお湯にして使って、5〜6%に薄めて使う。化合物は濃度が20%になると個体になって、目詰まりを起こすようになる。これが白華現象の原因になるので、濃度を薄めて使うということが重要だ。

 

環境ホルモンの疑い?

[ 守谷 ]
それと、ホウ酸には、もう一つ気になる点がある。これは確かなデータではないようだが、内分泌かく乱物質の疑いがある。海外のニュースで以前そんな話を聞いたことがある。もし、天井に塗って白華現象が落ちこぼれてきたら、環境ホルモンが室内にまかれるというおそれもある。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
守谷さんからの指摘を受けて、編集部でも調べてみました。ホウ酸が、生殖機能に有害性をもたらすのではないかという懸念の一例としては、欧州化学機関(ECHA/European Chemicals Agency)という、欧州連合の専門機関が2010年3月に発表した高懸念物質の8種類の化学物質の一つとして挙げており、認可の必要な高懸念物質に指定した経緯があります。
内分泌かく乱物質の規制の一例としては、カナダ政府が2008年にポリカーボネート製ほ乳瓶の輸入・販売・広告を全面的に禁止する方針を打ち出したことがあります。
こうした海外での動向を受けて日本の環境省では、ホウ酸及びその化合物に対して生態、健康のリスク評価を公表しておりまして、詳しい実験データや海外での鉱山で働いている鉱夫からの聞き取り調査などをもとに、リスクは認められなかったことを示しています。したがって、海外では生態・健康のリスクが心配されているものの、国内の評価としては科学的知見としての有力な裏づけは得られていないという状況です。ホウ酸は大量に摂取するのではなければ毒性は基本的に低いそうで、例えて言うと塩のようなものだそうです。

 

製法について

[ 守谷 ]
ホウ酸、ホウ砂については製造特許はとっていない。公知の事実として紹介できる所は紹介するけど、詳しい製法は公開していないんだ。
特に放射線対策については、大規模な利用のために、政界のお偉方から紹介されて産業界を色々回って提案して歩いたんだ。でも、結果的には重金属なしではありえないという理由で残念な結果になってしまったんだ。今でも試験結果の原本は、守谷建具の知的財産として金庫に大切にしまっている。
もちろん住宅の健在にも応用できるし、本気で取り組みたい企業とは、技術提携したいと思っているよ。

 

試験結果の一部抜粋


左官試験体のガンマ線遮蔽率測定試験結果について 2012年9月20日
(中略)
外装仕上げ材として考えると、上記(2)試験型を15mm厚で左官した場合には、左官部分の鉛相当厚は約1.7mmとなり、下地PB(=プラスターボード)分を加えると鉛相当厚は約2mmとなる。また、左官厚が20mmの場合は、鉛相当厚は約2.5mmとなる。
すなわち、外装左官仕上げとして本配合の材料を使用した場合、15mm〜20mmの塗り厚で、鉛に換算して2〜2.5mm、ガンマ線遮蔽率が15〜20%の効果が得られることになる。
これは、滞在時間が長い住宅内にある人体の被曝量を考慮すると、一定の効果があるものと考えられる。

 


一枚板の建具の例(茅ヶ崎の家:先月号記事)

ホウ酸とホウ砂を煮て中性の液体にする(鉄などの物質の変化を防ぐため)

薬液をつけるとウレタンも燃えなくなった

塗料を塗った建材のガンマ線遮蔽試験の結果について

釘打ち用にゴムと合成したボードを開発

欧州化学機関(ECHA)のホームページ

ほう素及びその化合物の生態・健康リスク初期評価(環境省)

木づかいのコツ 不燃木材への挑戦 – 『月刊住宅ジャーナル』2019年03月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2019年03月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal-1903d1 )。

新連載 直伝 木づかいのコツ 不燃木材への挑戦

第5回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

参考データ

消防署によると、平成30年1月~3月における総出火件数は、1万1517件。うち建物火災が
6177件。建物火災による死者は1541人。建物火災の死者に占める住宅火災の死者の割合は、88.1%を占めている。建物火災の出火原因は、「こん
ろ」725件(11.7%)、「ストーブ」648件(10.5%)、「たばこ」589件(9.5%)。東京消防庁の調べでは2016年中のストーブ火災の
うち電気ストーブが76%を占めている。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
これまで2回にわたって木材の断面をナノレベルで観察し、優れた透明性があることを確認しました。こうした
木材の特性を活かして、例えば薬剤を注入して新たな機能を付与する化学処理木材への応用も可能と思われます。建具分野では、今、どのような処理木材が必要
だと思いますか。

[ 守谷 ]
今、一番必要なのは不燃材だろう。冬場は乾燥しているから、全国で住宅火災が起きている。しかも、電気ストーブの火災が多い。不燃材で衝立(ついたて)や柵を作ってストーブの回りに置けば、飛ぶように売れるかもしれない。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
ストーブの安全対策用の柵は、スチール製のものが主流ですが、もし、不燃材を使えば、木質インテリアとしてデザイン上の調和を図ることもできるようになります。
こうした木材製品を作る際に重要なことは何でしょうか。

 

大事なのはコスト

[ 守谷 ]
作ること自体は難しいことではない。不燃木材の基本的な製造技術は確立している。問題は、安くつくるための技術が確立していないということだ。だから、守谷建具では、安く作るための製造方法の確立に目下取り組んでいる。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
不燃木材は、まだ市場では普及しておらず、相場観が把握しづらいものがあります。参考になる価格を教えてください。

[ 守谷 ]
木材に塗布する不燃薬剤、これは原材料ではなく、誰でも使いやすいように気にしみ込みやすく製造されているプロ向けの不燃
木材用の塗料のことだが、平均的な価格としては、おおよそ1リットルあたり1500円ほどで取引されている。一見すると安いように思えるかもしれないが、
これをドラム缶ひとつ分(200リットル)作るとすると30万円になる。例えば杉の木材を1立米分(1000リットル)の薬剤の価格は150万円になる。
不燃材をつくるのには、かなりの量の薬剤を使うから、木材よりも薬剤の方が高いと言える。

 

原材料のいろいろ

[ 月刊住宅ジャーナル ]
安く製造するには、何から手を付ければいいのですか。

[ 守谷 ]
プロが本気でやるんだったら、まずは薬剤を製造するための原材料の選定からはじめたほうがいい。
不燃材を作るための原料にはさまざまなものがある。硫安、ホウ酸、アンモニア、グアニジン、タンニンなどがある。このうち、最も安価に入手できるのが硫安だ。肥料として広く使われているので、近くの農協で購入することができる。
うちの畑では、かみさんが野菜を作っていて、兼業農家だから簡単に購入できる。ホームセンターでも購入できる。
(※硫安=硫酸アンモニウム。代表的な窒素肥料の一つ。水を加えると吸熱反応を起こす。消火剤、保冷剤、冷却材としても用いられる。)
硫安を使った不燃木材の良いところは、肥料になるということがある。硫安はもともと肥料だから、不燃木材に使って、最後に廃材にした場合、粉砕して畑にまけば農業肥料として再生できる。

谷建具でも硫安を使った不燃材を作ってみたことがある。驚いたのは、1200℃で燃やした後の不燃材の表面がセラミック状になり通電性が出て、電気を通す
ようになったことがある。これは高温で硫安の成分がしみ出てきて、表面がガラス状になり、おそらく内部に炭素成分があるために通電性があったのだろう。
硫安の注意点としては、357℃で微量のアンモニアガスが発生することがある。ただし、木材に使う位なら濃度が薄いので人体に害はない。アンモニアは不燃薬剤の原料の一つでもあり、不燃材の中には硫安ではなく、アンモニアを混ぜているものもある。

 

ポイントは濃度

コストを下げるためには、原材料の選択もあるが、濃度ということも重要だ。
一般的に不燃木材につける薬液の濃度は20%ほどである。な
ぜ、20%なのかというのは、木材の性質と関係している。通常の自然乾燥の木材の含水率は15%から25%ほどとされていて、これが薬液のコストを下げる
には、不燃木材としての性能が落ちないように薬液の濃度を下げればいい。例えば、10kgで700円の硫安の場合は1リットルの薬剤を20%の濃度でつく
るのに、14円分の硫安を必要とするが、濃度を10%にすれば、わずか7円で済むようになる。
(次号につづく)

不燃材料に関する注意点

市販されている不燃材の多くは公的機関における実験データを取得しており、利用における性能と安全性が第三者に
よって証明されています。性能や安全性が証明されていない不燃材の取扱には十分注意してください。また、薬剤を木材に注入させるには、加圧注入などの専門
的な技術と装置を必要とします。不燃材の性能の確認のため、燃焼等の試験を作業所で行う際には、火の元、飛び火、可燃性物質の有無などに十分に注意して、
近隣の消防署に連絡をとって許可をとり、万全の安全対策をとる必要があります。