木づかいのコツ 木材の透過性を極める – 『月刊住宅ジャーナル』2019年02月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2019年02月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal-1902d1 )。

新連載 直伝 木づかいのコツ 木材の透過性を極める

第4回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 月刊住宅ジャーナル ]
前回は木材の赤身にある壁孔について顕微鏡写真で観察して赤身が腐りにくいということを実例を通して学びました。また、特殊な技術を使って壁孔を破る技術についての紹介がありました。

[ 守谷 ]
赤身を破るのには特殊な圧力窯が必要なんだ。1m×1m×4mのオートクレーブを手作りで1000万円で自社製作して実験して国際特許を取得した。でも特許を取得して製造ノウハウを保護しても、商品として普及しなければ、特許を維持するために更新料を払い続けるのが大変になってしまって、結局、特許が無効になってしまう。だから守谷建具では、今、申請中の特許もあるんだけど、残念だけど更新をあきらめたものもある。駄目だったもので分かりやすいものについては、もう一つの方向性、つまり「公知の事実※」として、みんなに知ってもらって、木育(もくいく、木の教育)に役立ててもらおうと思ってるんだ。半ば道楽ではじめたことだから、みんなに面白く見てもらえると思うよ。

( ※ 公知の事実 : 特許登録ができない、周知の事実のこと。メディアなどを介して広く閲覧可能な情報も指す。)

[ 月刊住宅ジャーナル ]
それで、今月号はまた新しい木が出てきました(写真1)。これは何でしょうか?

[ 守谷 ]
これはスギの透過性(ここでは液体流動性を指す)を調べるために、今から20年ほど前に奈良の林業試験場の伊藤さん(現在の奈良県林業技術センター)と実験した時の試験体だ。試薬の青い色がついている。時間が立って木の日やけが出てきているから少し見えにくいけどな。圧力をかけて青い試薬(メチレンブルー)を木材の小口から吸い込ませたんだよ(写真2)。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
よく見ると、まだらになっていたり、きれいに通っているものもあります。

[ 守谷 ]
まだらになっているのは、赤身にぶつかって水分が通らなくなった箇所だよ。小口から道管を通ってきた水は、板目の木材の木目にそって木材の断面にまできて染み出てくる。隣の木目が白太ならなら隔壁を通過するが、赤身だと、前回説明した壁孔(フタのついた孔)にさえぎられて隔壁を通過することができない。だから、まだらになっている。液体がきれいに通って全体が青く染まっているのは、赤身で白太が全くない木だ。たまにこういう気もある。
自分は、これを「透過性」と呼んだが、当時は学会ではあまり使われていない表現だった。「透過性」とはガラスが光を通すとか、放射能が通るという、分子レベル、原子レベルで使う語なので、植物が水を吸い上げる導管のスケールで使うのは適切ではないと思われていたのだろう。でも、スギの壁孔というのは電子顕微鏡で見ないと見れないくらいに微小なナノスケールだし、水を通すだけでなく、色んなものを通すから、自分はこれを「透過性」と呼ぶことにしたんだ。

(現在では学術論文でも木材の透過性という表現が見られる。)

[ 守谷 ]
これから空気を通してみる。樹種はスギ、ヒノキ、アガチスだ。片面の小口に家庭用の台所洗剤を塗る。反対側の小口にくぼみをつけて10キロの圧力で小口に空気を入れる。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
片面から泡が出てきました(写真6)。空気が通っている証拠です。

[ 守谷 ]
スギの白太はエアガン10キロで2mは空気が通るが、赤身は通らない。次は赤身にくぼみをつけれやってみよう。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
赤身は、10センチの長さの杉材でも通らないですね(写真7)

[ 守谷 ]
次はヒノキをやってみよう。ヒノキは赤身も通しやすいんだよ(写真10)

[ 月刊住宅ジャーナル ]
短いヒノキは赤身も通しました。長いヒノキの赤身には空気が通りにくいようです(写真9)。全体的に見るとヒノキはスギよりも材が緻密なせいか、杉の白太の方が空気が通りやすいようですね。

[ 守谷 ]
ヒノキの赤身はスギの赤身よりも腐りやすいと言える。だから、ヒノキの赤身は腐らないというのは大誤解だ。
次はアガチスだ(写真11)。あれ、これは通りにくいな(写真12)。通りやすいアガチスもあるんだけどな。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
樹種によって空気が通りやすい、通りにくいというのは、木材に水や空気などを通して加工する際の、歩留まり(生産性)に影響を及ぼしそうですね。杉の白太が一番歩留まりがいいようです。他にも通しやすい樹種はありますか?

[ 守谷 ]
早く成長する木(早成樹)には水を通しやすいのが多い。木材用だとラジアタパインやサザンパインは、すごく水や空気を通しやすい。化学木材加工、不燃木材加工にはラジアタパインは適している。杉、ヒノキをナノレベルで加工するには、真空に近い状態の中で加圧しなければならない。
それと腐りやすい木は通しやすい。腐りやすいということは腐朽菌がつきやすいからキノコの栽培に向いている木だということだ。クヌギとかナラとかは、シイタケのほだ木にするだろう。ああいう木はすごく水を通しやすい。
誰でも簡単にできるから自分でも実験してみるといいよ。(次号につづく)


今回の実験結果

  • 長い杉材(厚 5mm×幅 15cm×長 70cm)
    白太は10キロのエアガンの空気が通った。
    赤身はエアガンの圧力を20に上げても通らなかった
  • 短い杉材(長 30cm)でも、赤身は通らない
  • 長い桧材(長 70cm)は白太のみ空気が通った
    赤身は空気が通らなかった
  • 短い桧材(長 30cm)は、赤身でも空気が通った
  • アガチス(長 40cm)は、赤身も僅かに空気が通った

写真 1 – 杉の透過性を実験した際の試験体

写真 2 – 青いのは薬液が浸透した白太
茶色いのは薬液が浸透しない赤身

写真 3 – 反対側の小口の白太にくぼみを付ける

写真 4 – 家庭用洗剤を杉の小口に塗る

写真 5 – くぼみにエアガンを当てて噴射

写真 6 – 反対側の小口の白太から泡が出てきた

写真 7 – 赤身は短い材でも空気が通らない

写真 8 – 次はヒノキ 赤身と白太に印をつける

写真 9 – 長い桧材は白太だけ空気が通った

写真 10 – 短い桧材は赤身も空気も通った

写真 11 – アガチスも通りやすいそうだが…

写真 12 – ほんの少しだけ泡が出てきた

木づかいのコツ 杉の赤味をナノで観察 – 『月刊住宅ジャーナル』2019年01月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2019年01月号で紹介されました。以下に転載します。
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新連載 直伝 木づかいのコツ 杉の赤味をナノで観察

第3回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 月刊住宅ジャーナル ]
早いものでもう年末です。お仕事の方はどうですか。

[ 守谷 ]
今、今、保育園のドアを作りおわったところだよ。
珍しいイチイの大木が手に入ったから、今からオブジェも一緒に作って納品するところだ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
これまで2回にわたって連載を続けてきましたが、守谷さんの説明には、木材の熱質量がいくつであるとか、木の比重がいくつであるとか、木材を扱っている業者さんでも難しい説明があることに気づきました。今月号からいよいよ”守谷木材学”の本論に入るべく、ぜひとも教えて下さい。

[ 守谷 ]
俺は中学出てすぐに建具の修行したから、自然現象と実験結果しか説明できないが、木の熱質量がいくつという話を聞いても学会ではわかるけど、日常生活で使わない表現だからピンとこないかもしれないな。でも、例えば、何で40℃のホッカイロで低温やけどをするのに、100度の木のサウナの内にいてもやけどをしないのかとか、そういう疑問は、熱質量を使わないと説明ができないんだ。
木を扱っていると、うまく説明ができないことはたくさん出てくる。だから、俺は木材だと細胞レベルどころじゃなくて、もっと小さなスケールで説明するんだ。
考えるヒントになったのは、この写真だよ。1098年に日本で初めて撮影した。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
丸いモノが見えます。これは木材の細胞ですか?

[ 守谷 ]
いや、細胞よりももっと小さい。杉の心材部、つまり赤身の部分の細胞の壁孔を電子顕微鏡を使って観たものだ。1998年に企業と開発をした時に電子顕微鏡で撮影したんだ。
拡大した写真でよく見ると壁孔に膜がついてふたがされているのが分かるだろ。この壁孔の膜は、赤味にはあるが白太(しらた)にはない。この膜を学会では”弁がふさがっている”という説明をしている。弁と言えば心臓のように閉じたり開いたりするもんだが、実際には、そう簡単に開くものではないんだ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
この細胞壁孔と膜は、木材の性質とどのような関係があるのですか。

[ 守谷 ]
木が腐らないことと関係している。
杉の丸太の断面を見ると、まわりの辺材は白くなっていて、中心の心材は赤くなっているだろ。白いのを白太と読んで、赤いのを赤味と呼ぶ。
杉の丸太を長い年月、草むらに放置すると、まわりの白太が全部、腐朽菌やシロアリに食われてしまってなくなって、心材の赤味だけが残る。
これをナノレベル(注1)で説明すると、赤味の細胞の壁孔がふたで閉じられているので、次の細胞に空気がいかない。だから腐らないので残るという説明になる。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
つまり、赤味は赤色、白太は白色という風に、色で区別するのではなくて、ナノレベルで違いを区別すると、木材の腐朽の原因をより科学的に説明することができるんですね。

[ 守谷 ]
木材の腐る原因には、空気、水、温度の3つがあると考えればいい。
このうちのどれか一つがなくなると、木材は腐らなくなる。例えば、古代杉といって、長い間、噴火の火山灰に埋もれて地中に埋もれていた杉があるだろう。なぜ古代杉が残るかというと、空気のほとんどない状態で埋うまっていたから、木が腐らなかったというわけだ。同じように、水がなければ、あるいは温度がなければ、木は腐らなくなる。
杉の赤身がなぜ腐らないかというと、赤身の細胞壁孔が膜で閉じられているので、空気が通らない。だから腐らないんだ。
この性質を利用すると、いろんな木材の開発ができる。この杉材の細胞壁孔の写真は、杉を使って人口の琥珀を作り出す時に撮影した写真だ。この技術でアメリカとドイツで国際特許を取得したんだ。
赤身を高温150℃で真空状態にしてから釜を空けて空気を入れ、瞬時に常気圧に戻すと、細胞壁孔の膜が敗れる(写真)。この孔の処理を施して(写真)、孔の中にモノを入れると全く新しい材料ができるというわけだ(注2)。

注1:
ナノメートル(nanometre、記号nm)は、国際単位系の長さの単位で、10億分の1m 1nm = 0.001µm(マイクロメートル)

注2:
杉材の壁孔の走査型電子顕微鏡写真(1万分の1スケールで撮影したものを拡大)。杉材の心材部を10x20x5mmほどの寸法にカットして、接線断面から軸方向の細胞の有緑壁孔を観察。試料を金蒸着し、二次電子像を観察。


イチイの銘木

杉材の細胞壁孔

杉の赤身の細胞壁孔の拡大写真 壁孔は膜で閉じられている

杉の赤身の細胞壁孔の拡大写真 壁孔は膜で閉じられている

草むらに30年放置すると赤味は残る

破って膜の孔に処理をした状態

細胞壁孔の膜が破れた状態

木づかいのコツ 交差木材の構造部材 – 『月刊住宅ジャーナル』2018年11月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2018年11月号で紹介されました。以下に転載します。
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新連載 直伝 木づかいのコツ 交差木材の構造部材

第2回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 月刊住宅ジャーナル ]
前回は、木材を直行させた際に生じる変形の問題とその対策について、最新の木材であるCLTや無垢材の玄関ドアを例に出しながら論及しました。

[ 守谷 ]
ところで反響はどうだったのかな。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
おかげさまで好評です。初回からアクセル全開じゃないのかというご意見まで頂きました。

[ 守谷 ]
最近は色々縁があって、大手ゼネコンの設計担当者や材料仕入れの責任者から相談を受けることがあってCLTの話題にもなるんだよ。今まで木造の設計をしたことのない設計者からすると木材なのにCLTにすると重量がえらく重くなって、その割には横の強度が弱くて使いにくいと困っているし、俺からすれば木材の変形に対する対策が納得いかないんだ。
そこで、木材を交差させても、変形にしっかり対応できる構造部材を守谷建具で開発した。この構造体の体積の9割は空気だ。大手ゼネコンにはこんな壁や床を使えば大丈夫だと勧めている最中だ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
これは一見すると、組子(くみこ)のようにも見えます。いや、組子よりもずっと大きいですね。

[ 守谷 ]
合板に張って、木質の構造体にするものと、コンクリートに用いるものと二つを用意した。これは合板パネルとして用いるものだ。
普通に木材を90度に直交させて合板に張ると、水分を吸って木目方向が出っ張ってくる。サブロク(3尺×6尺)サイズなら3mmから4mmは木目方向が出てくる。そこで角度を変えて、45度よりも鋭角で斜めに交差させる。こうすると木材が外に伸びてこないようにすることができる。こうすれば強度が上がり、端材を利用することもできるようになる。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
筋交いや組子といった在来工法や伝統建具で用いられてきた材料にもこうした木材の変形に対応する知恵や工夫が隠れていたんですね。

[ 守谷 ]
柱や梁だってそうだ。今じゃ乾燥剤が増えて背割り材を見なくなったが、背割り材だって柱材が割れるのを防ぐためにはじめから割れをつけることで、木が水分を出して割れないように、はじめから遊びの余地をつけてたわけだ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
背割り材を上手くに使える大工さんや設計士さんが少なくなっていることは残念ですね。

[ 守谷 ]
この合板パネルを製作する際の注意点としては、耐水性酢酸ビニールの接着剤を密着させることだ。表面を蛇腹状に研磨することにより、接着剤表面積がおそらく想像以上に大きくなり、接着剤に柔軟性が出てくる。ワイドサンダーで40番から60番くらいの面がいい。守谷建具では内部建具の杉・桧の集成でもこうやって加工してるよ。外の畑に5年くらい放置しても変化はないよ。
それから両面に接着剤を塗ってから貼る。鋭角の巾剥(はばは)ぎ材と同方向になるので接着剤の表面の疲労が起きにくくなる。CLTの理想の組み合わせは、鋭角の巾剥ぎ材を交互に接着することだ。他にも様々な方法があるが、自分の経験からが最善だと思う。こうすると水に1ヶ月漬けてからハンマーで叩いてもはがれなくなる。
前回も説明したように最近の集成材は、木ではなく接着剤に無理を負担させているから、理論的には航空機の部品の金属疲労のように木材との接着面に疲労が起きるはずだから、使う側は注意することが重要だ。
数年前に山車の車輪を製作したことがあって、ワイドサンダーで表面を研磨して耐水性のポリウレタンの接着剤を使って貼って、試しに川の中に一ヶ月漬けてみたら変化はなかった。詳しくは守谷建具のホームページでU-tube(ユーチューブ)の動画で掲載しているので観てほしい。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
こちらの構造体は何でしょうか。

[ 守谷 ]
これはビルのカーテンウォールに使うコンクリートと組み合わせた構造体だ。これは守谷建具と富士セメントで共同開発した。鉄筋コンクリートじゃなくて「木筋コンクリート」という名称だ。特許を出願する際に、弁理士から聞いた話だが、戦争中には鉄筋が不足していて、鉄筋の代わりに竹を入れたコンクリートの建築物で特許をとったものがあったそうだ。それを「竹筋コンクリート」と呼ぶなら、これは「木筋コンクリート」になる。
コンクリートと木というのは、異素材だと思うかもしれないが、コンクリートは強アルカリ性なので、木はアルカリが入ると強くなる。
コンクリートを木材を密着させるために自動かんな盤のような凸凹のローラーを使って木ごろし( * )をする。こうすると水分を吸いやすくなる。コンクリートの水分を吸うことにより、凹凸になり、密着させるんだ。この試験体では鉄筋も一緒に入れて90度に曲げることで強度を出している。中芯が鉄で外側が木材だから、鉄筋が膨張することによる爆裂(パンク)が置きにくい。
メリットとしては、鉄筋よりも軽量化できることだ。特に木材を金属とコンクリートの代用として使用できるようになる。次世代の木材の応用技術開発になるというわけだ。

* 木ごろしとは?
木材を叩くことなどにより、木材の性質を変えることを木ごろし(木殺し)と呼ぶ。守谷建具では、木製ドアを製作する際に、木材の接合部を金槌で叩いて木ごろしをすることで割れを少なくするなど、様々なきごろしをする。


材料を斜めに交差させた構造体(合板パネル)

斜めから見たところ

杉桟を斜めに交差して貼る

守谷建具の畑 木材や建具をあえて屋外曝露する

背割り材

背割り材を使った躯体

筋コンクリートを共同開発

自動かんな盤の送りローターで木ごろしする

木づかいのコツ CLTに異議あり – 『月刊住宅ジャーナル』2018年10月号掲載 – CLTは内部で膨張・収縮を繰り返し自壊する

CLT(杉を交互に重ねて接着した集成材)は湿度の影響を受け、CLT内部の構造の中で膨張・収縮を繰り返し自壊します。木材は方向により膨張・収縮の大きさが違うためです。

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2018年10月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal-1810d1.pdf )。

新連載 直伝 木づかいのコツ CLTに異議あり

第1回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

連載趣旨
循環型資源である木材の理由にあたっては現場で培った経験と科学的見地に基づいた知識が欠かせない。職人の減少に歯止めがかからない状況の中、本誌では、木材加工において豊富な経験と知見を持ち独自の理論を展開している守谷建具の守谷和夫代表に、木の使い方を主なテーマに洗いざらし質問する新連載をスタートする。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
近年は国の推進もあって、木材の利用をより意識的に進めようとする動きが活性化しています。守谷さんはどのように見ていますか。

[ 守谷 ]
最近では、俺達の世代が持っている木材の知識や経験じゃ、理解できないものが出てきたな。特に、CLTには驚いているよ。CLTってのは、要は杉を交互に重ねて接着した幅はぎ材(*)のことだろ。あれで、問題を起こす業者もかなりいると思うよ。
* 集成材の意味。建具業者は自社で接着して作る。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
問題といいますと…

[ 守谷 ]
建具の業界でいう『パンク』と呼んでいる現象が起きるんだ。つまり木が反り返ったり、膨張や収縮を起こして壊れてしまうんだ。日本の板目の杉は、乾燥と湿気に対してとても敏感なんだ。建具屋では、タモ・杉・桧(ひのき)の集成材をよく仕入れるけど、既製品を仕入れてから4〜5日しておくと、表面が木の収縮で凸凹(でこぼこ)してくるからワイドサンダーで研磨し直すんだ。だいたい8分(24mm厚)から1寸(30mm厚)のは出るよ。集成材は7〜8%まで乾燥させているそうだし、巾(はば)剥ぎ方向が長い上に、CLTだと縦方向・横方向に交互に張るから相当ずれるだろう。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
守谷さんは、新しい材料を建具に用いる際には、すべて自社で試験体を作って実験してから、使うそうですが、CLTのような交互に重ね合わせる幅はぎ材についても自社で実験されたのですか?

[ 守谷 ]
もちろんやってみたよ。和室の鴨居(かもい)によく使う120mm×厚み45mmの杉の材料を使って試験体を作ってみた。含水率を約2%に落とした4寸の2.2尺(670mm)の板を使って、削って厚み40mmにして、16枚積み重ねて、接着剤は使わずに、1枚につきダボ(直径10mm、長さ50mm)を2本ずつ入れて、両側に64本のダボを入れた。これで一年間放置しておりたら、ダボがみんな折れてしまった。
なぜそうなるかというと、杉の板目は湿気と乾燥に敏感だからだ。木材は横方向・長さ方向は収縮がないが、幅方向はすごいあるから、幅方向に引っ張られる。縦方向は伸びないけど、横方向は伸びる。ぬれると幅方向に伸びて、雨がふると外部のパネルの継ぎ目は毛細管現象を起こして、横はぎの方に水を吸い込んでのびる。例えていうと自動車がカーブで曲がる時の内輪と外輪の関係と同じだ。同方向に接着すると、同方向の板に関しては幅がほとんど変わらない。つまり、接着方向を同じ方向にはるとお互いの木材がついていくけど、縦横交互にはると互いの木材がついていかないわけだ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
それだけ木が変形すると、接着剤の選択も難しいですね。

[ 守谷 ]
木材の変化についていく接着剤がいい。酢酸ビニール系の接着剤は、湿気があると収縮性があるから木材の変化についていく。うちじゃ、酢酸ビニール系の耐水性の強いボンドだけを使ってる。普通の建具屋が使うボンドの3倍くらい価格がするけど、水に漬けた後に金槌で叩いても剥離しない位強力な接着剤だ。接着面が柔らかいというのがいいんだよ。木の変形追従できるんだ。硬化してしまうタイプの接着剤だと、木の変形に追従できないから、時間がたって伸縮が繰り返されることで接着剤に疲労がおきるんだよ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
守谷さんは、建具づくりにも木の変化に追従できる接着剤を使っているんですか。

[ 守谷 ]
この間の田園調布の玄関ドアにも使ったよ(*)。これは難しいドアだった。加工よりも理論的にも難しかった。なぜかって。そりゃ、普通にこういう中桟なしの一枚板のドアを作ったら、ドアが垂れるに決まっているだろ。蝶番をいくら強いものにしたってドアの重さで垂れ下がってしまうから使えなくなるんだ。
* 2018年9月号P42記事参照

[ 月刊住宅ジャーナル ]
お寺や立派な門構えの家では一枚板の唐戸の開け閉めができなくなって、勝手口から出入りしているのをたまに見かけますが、ドアの垂れは怖いですね。

[ 守谷 ]
垂れをどうやって防ぐかが大事なんだ。まず、ドアの真ん中の板は木の割れを防ぐために、5mmの耐水合板で両面から秋田杉を耐水性の酢酸ビニール系の接着剤ではって、去年の暮から倉庫の2階に4ヶ月ほどすっぽっといてからカットした。4ヶ月放置したのは、はじめに内側の耐水合板と外側の杉の収縮がどれくらい違うか調べたかったからで、やってみたらズレがなかったから使うことにした。
接着するときに接着面の両面に接着剤を塗るか、それとも片面だけに塗るかということも難しいんだけど、ここでは合板に2回塗る。板に塗ると板が伸びてしまうので板には塗らないでプレスする。
それからホンデュランスマホガニーを両面から継いで溝をついてぴったり遊びなしで入れて、ねじで留めて完璧な一枚のパネルにしてから、上桟・下桟のダボをギリギリにしていれた。上桟・下桟の角には養生テープをはってから1ミリ位の遊びでシリコンのコーキングを注入した。枠やパネルが伸び縮みして動いてもいいように、膨張分の遊びが必要になる。それをシリコンのコーキングが収縮分の遊びをつくってくれるので、木が収縮して動いたときにシリコンも収縮するようになる。そこまで木の動きを読んでから現場に納品したというわけだ。
ここでの耐水合板のパネルは木の割れを防ぐ筋交いの役割を果たしていて、木の収縮分をシリコンで受けているという構造だ。

無垢材にこだわった平屋建70坪/田園調布の数寄屋風住宅の建築現場/『月刊住宅ジャーナル』2018年9月号掲載 ワイツー設計株式会社:設計監理

守谷建具店が建具を納品した案件が月刊住宅ジャーナルで紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら(PDF)。

無垢材にこだわった木の家大好き趣味人の家
田園調布の数寄屋風住宅の建築現場
平屋建70坪/茶室つき/使用木材80m^3

東京の高級住宅地として知られる田園調布において、平屋70坪の和風住宅の建設工事が進められている。洋風の家が多い田園調布の家並みの中では珍しい和風住宅で、近隣で評判となっている。設計を担当したワイツー設計の小俣氏に案内してもらった

[設計の特徴]
施主は現役の実業家で、木をたくさん使った家が大好き。いくつかの家を持っており、今回は瓦屋根の和風住宅で無垢の木にこだわろうと思い、以前、紀州桧で作った住宅の雑誌記事を見てワイツー設計に依頼。家の構成としては、3人家族を想定して設計。お茶会など多目的に使える間取りとし、LDK(オープンキッチン型)+多目的和室(食事・茶室・お客様用寝室)+個室+書斎+予備室+ビルトインガレージ その他各部屋収納としている。茶室設計に関しては、表千家流茶道で長年学んできた経験を活かし、茶事にも対応できる露地計画を含めた設計とした。建物は、道路に接する南側を雁行させ、化粧軒裏部屋を磨丸太の独立柱で支えた造りとし、和風住宅に欠かせない庭との繋がりに重点を置いて建物と外溝をトータルでデザインした。周りの近隣住宅との調和も視野に入れた設計としており、例えば 家の顔となる玄関周りは、アプローチを600角タイルのモダンな色違い市松柄配置とし、玄関を和風でありながら観音開き扉にするなど近隣に溶け込みやすいデザインとした。内部においては、パブリックスペース(玄関ホール・和室・LDK)は 化粧柱を生かせる真壁造りとし、その他は大壁造りで、和風モダンな設えとした。

[田園調布の協定]
この住宅は、不動産価値と木材利用という二つの側面から際立った特徴を持っている。敷地面積255坪、東西に長い南東の角地という和風住宅の設計に適した立地である。この敷地には、「日本資本主義の父」として知られ、大正年間後半に日本ではじめて住宅と庭園の街づくり”田園都市構想”を提唱した渋沢栄一(1840~1931年/田園調布の創設者)の邸宅があった。その後は2棟の住宅が建ち、近年は大手企業が遊休地として保有していた。
住宅の建設にあたっては、田園調布環境委員会と協議し、合意を得た計画を区役所に提出した。田園調布には独自の規定がある。例えば、敷地境界線から敷地内に環境緑地として幅員1m以上の植栽ゾーンを設けなければならない。塀を設ける場合は、境界線の1m以上内側に設置する。塀は生垣が推奨されているが、フェンスや柵の場合は高さ1.5m以下とし、石材・コンクリートの場合は高さ1.2m以下とする。駐車スペースにシャッターを付けれる場合は、シャッター面は見通せる材質及び形態とする。隣接地に配慮して、北側の開口部は隣家の南側にあたることから、不透明性のガラスなどを採用しなければならない。こうした独自の規定を守りながら建設が行われた。
工期は約8ヶ月。昨年10月に地鎮祭を執り行ったが、台風の影響で月の3日ほどしか稼働できず、11月から本格的に工事を開始し、2018年6月に建物が完成。造園は今年9月頃から工事開始予定。

[使用木材は約80立米]
使用木材は、構造材、造作材、建具材を合わせると約80立米(m^3)。平均的な戸建て木造住宅での木材使用量は、約20立米未満と言われているので、約4棟分超の木材が用いられている。
構造材は全て無垢材とし、柱には紀伊半島材の桧(JAS構造材)120角を使用。主に丸宇木材(東京都江東区亀戸)で仕入れた。玄関ホール、和室、LDKの4寸角化粧柱、7寸(212mm角)の大黒柱は吉田ヒノキ。窓の連格子や雨のかかる箇所にもヒノキ材を用いた。軒廻りで見える無垢の桁材は米松平角材を用いた。
床材は無垢フローリングで、広幅(150mm)でゆかだんぼうにもたいおうすることがじょうけんであったため、和風・洋風どちらにも合わせやすいメープルの挽き板(3mm厚)を用いた。玄関ホールから各居室までは沓摺(くつずり)を設けず、20m近く通し張りのため、無垢材の色を選り分けてからの床張りとなった。
建具・無垢の家具・銘木類は、守谷建具(埼玉県所沢市)で作成。一般的に木製建具は、合板(シナベニアなど)、輸入木材(スプルース等)の枠材、化粧シート剤(メラミン樹脂等)を接合・接着して製作されることが多いが、守谷建具は、独自技術で4年ほどかけて養生した杉や檜などの無垢材の建具に特色があり、生産性に優れた機械設備を駆使して製造。ドアの面材には秋田杉の挽き板、下駄箱などの造作材には山武杉(さんぶすぎ)(千葉産)の銘木を用いており、長年の風雨で形成された木目を意匠として見せている。ドアの枠材・框材・木製サッシには国産ヒノキ、銘木としては、玄関ドアに40年前に仕入れたホンデュラスマホガニー、リビングの収納に白地のラオスヒノキ、床の間の地板には、名古屋の廃業した銘木店の倉庫から出てきたという樹齢600年ほどの4m1枚板の栂(とが)サワラ(日本栂(つが)によく似た樹種)を用いるなど、現在では入手が難しい樹種も用いられた。

[軒先と茶室の特色]
軒先を見ると、主屋根は、いぶし銀の瓦葺き、下屋根はいぶし金の鋼版葺き、垂木の鼻が見える意匠としている。軒で小口を見せようとすると、雨樋(あまどい)を用いずに、軒先からそのまま雨を落とすことになる。これは寺院や京都の庭園などの屋根で見られるやり方で、屋根周りが数寄屋風のすっきりとした意匠に仕上がっている。下屋根軒下には、伊勢五郎太(いせごろうた)石を雨落ち石に敷いて雨水を落としている。庭の化粧砂利も京都のさび石を用いて、建物との色の調和をとっている。
東側に向いた和室は茶室としても利用される。茶室の露地・庭園は秋からの造園予定で、立ち蹲(つくばい)を和室廊下の濡縁(ぬれえん)先に置き、景色を作る計画だ。本誌記者の見学時(6月中旬)には、すでに飛び石が敷かれていた。茶室は8帖の広間で、LDKとの境にある引込型の戸襖を閉じれば独立した空間になる。天井には霞雲(かすみぐも)を現した照明が塗天井に埋め込まれ、釣釜(つりがま)用の蛭釘(ひるくぎ)が打たれている。床の間は垂れ壁で富士山の袴越(はかまごし)の稜線を現し、違い棚と地窓障子横桟(じまどしょうぎよこざん)で霞雲を現した富士山型霞床(かすみどこ)、また、床の向かい側壁面に軸釘・中釘を設けて壁床に見立てることで霞床の機能面を補う形とした。
茶室の造作工事には、伝統的な大工の技法が駆使された。外壁のリシンかき落とし作業では、約10名の左官職人が集まってかき落としを行うなど、伝統的な技能の維持・継承という面においても特色があり、田園調布においても、近年では珍しい普請となった。

DATA
所在地 東京都大田区田園調布
敷地面積 845.30m^2 (255坪)
建物面積 256.18m^2 (77.49坪)
延床面積 223.66m^2 (67.65坪)
敷地条件 第1種低層住宅専用地域
大田区景観計画 大田区みどりの条例
景観法 第2種風致地区
田園調布地区計画 田園調布会 田園調布憲章
建物構造 在来軸組工法
建物規模 平屋建
設計監理 ワイツー設計
構造設計 SC設計
施工 本間建設

正面玄関 袖壁円窓越しに力竹・晒煤竹の連格子が見える
( 写真提供 松井一真 )

正面玄関のドアの面材は秋田杉とホンデュラスマホガニーを組み合わせた ドア枠の下部には腐食防止の鋼版
( 写真提供 松井一真 )

茶室は8帖の広間 床の間は垂れ壁や霞棚で雲間の富士山をあらわしている

橡の銘木の上がり框

壁床 中釘にかけた花入れ

金箔を散らした漆喰
( 写真提供 松井一真 )

水屋
( 写真提供 松井一真 )

茶室前の飛び石・延べ段

リビングの引込障子とカウンター飾棚 収納(ラオス桧)
( 写真提供 松井一真 )

玄関ホール兼寄付 待合床が控えている
障子を開けると露地の景色を楽しめる
( 写真提供 松井一真 )

リビングから玄関ホールを見る
( 写真提供 松井一真 )

待合床吊棚
( 写真提供 松井一真 )

リビング収納(左から地窓を組み込んだ桧飾棚 ラオス桧収納井桁調桧飾棚)
( 写真提供 松井一真 )

主寝室 棚・カウンターは杉無垢材 収納扉は桧無垢材
カーテン類もトータルでコーディネートした
( 写真提供 松井一真 )

子供部屋 棚・机は杉無垢材 デスクボードはコルク板を使用
入口扉は桧羽目板風框戸
( 写真提供 松井一真 )

建物西側から見た外観
( 写真提供 松井一真 )

化粧軒裏屋根を磨丸太の独立柱で支えている
( 写真提供 松井一真 )

書斎の引き出しの左右対処の面材は一枚板の秋田杉

廊下 居室入口のニッチ棚
( 写真提供 松井一真 )