木づかいのコツ 自然出火が一番怖い – 『月刊住宅ジャーナル』2020年01月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2020年01月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal-2001d1.pdf )。

新連載 直伝 木づかいのコツ 自然出火が一番怖い

第12回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 守谷 ]
木工所で気をつけなければならないことは火事だ。守谷建具では、これまでボヤが1回、あやうく燃えそうになったことが1回ある。どちらも自然と燃え出す火には本当に気を付けなければならない。

[ 月間住宅ジャーナル ]
木材を取り扱っている業者の方に聞くと、ボヤくらいの出火ですと、多くの方が経験があるようです。自然出火というのは火災の発生確率としては少ないそうで、廃材から出火して火災が発生するニュースはたびたび取り上げられていますし、北米材は自然出火の山林火災で出材が左右されるだけに深刻な存在です。

1. おかくずが燃え出す

[ 守谷 ]
最初に経験したのは、俺が建具屋をはじめた頃だ。今70歳だからもう50年以上前のことだ。朝起きて木工所に来たら、床下から煙が出てたんだ。当時の木工所の床は、杉板を置いただけで目地のないすき間だらけの床だったから、すぐに床板をとっぱらって中を見たんだ。すると、床板のすき間から落ちてたまったおがくずの中から煙が出ていたんだ。
すぐに消したから何てこともなかったけど、何で燃えたのか原因が分からなかった。親父は煙草の燃えさしじゃないのかって言ってたけど、朝早く床下にタバコを捨てる人なんていないからおかしいなと思っていたんだ。
それからしばらくして、所沢の駅前で大火事が起きた。大型のスーパーが丸焼けになって、その火災の原因が、天ぷらの揚げ玉が自然出火したってことが、ニュースに載ったんだ。その新聞のニュースを読んで、うちの工場で起きたおがくずの火事もこれじゃないかって思ったんだよ。

[ 月間住宅ジャーナル ]
所沢の火災については、消防署で聞いてきました。昭和44年(1969年)11月の西友ストアの火災で、地上2階建ての鉄筋コンクリートのビルが全焼した火災でした(囲み参照)。出火原因は、お好み焼きを作るために3つのポリバケツに入れておいた揚げ玉だそうです。この火災と守谷建具の木工所のボヤとは、どういう点で似ているんですか。

[ 守谷 ]
揚げ玉が燃えるっていうことは、山もりにしておいた天かすの微細な構造が吸い取った植物性油が酸化するにつれて、内部で発熱して温度が上昇して発火点に達したということだ。昭和30年代当時の木工所は杉や桧の自然乾燥材だったから、今のKD乾燥の輸入材よりも木の油分が多かったわけだ。その油性の多い桧のおがくずが、酸化とか発酵とかの何らかの原因で熱が発生して、おかくず内部の温度が上昇して、煙が出てきたんじゃないだろうか。
自分の経験上からすれば、おがくずは一番燃えやすい。かんなくずは意外と燃えにくい。おがくずの方が空気が入りやすくて燃えやすい構造なのだろう。守谷建具では、ワイドサンダーで仕上げているが、霧状にしたサンダーの木粉に引火するとガソリンのように爆発的に燃えるよ。

[ 月間住宅ジャーナル ]
数年前に展示会のパビリオン内のおがくずが電球の熱で発火して、遊んでいた子どもが亡くなる事故も起きました。

[ 守谷 ]
所沢の消防署のOBとは、自治会で顔見知りなもんだからよく話をすることがあるんだ。木材のチップの山から火がつくと消火が大変なんだそうだよ。中から燃え出しているもんだから、チップの山を突き崩してから消火するまでに時間がかかるそうだ。
その所沢駅の火事は、うどん屋の厨房を借りて、同じ状態で実際に試験をして自然出火したことを確かめたそうだよ。50年前のことだから、まさか天かすで燃えるとは分からず、裏づけの調査までしたそうだ。

[ 月間住宅ジャーナル ]
消防署によると、天かす火災については、必ず水をかけてから捨てるように呼びかけているそうです。高温のままよりも常温の方が火災の発生率が下がるそうです。
しかし、木材の場合は、墓場のヒトダマのように自然界でまれに発火するものですから、目で確かめることができません。
水分を含んで酸化が進むこともあるそうなので、火災予防のためには、専門的な知識の理解も必要です(次ページ参照)

2. 塗装の布から煙が

[ 守谷 ]
自然発火の予防は難しくない。要するに堆積物の内部で蓄熱するわけだから、熱をためこまないようにすればいいんだよ。おがくずは山にして長期間ほったらかしにしない。突き崩して平にしておく。これが一番の火災予防だ。
それともう1回、あやうく燃えそうになったことがある。塗装はうちのカミさんがやるんだが、夏場に自然塗料を塗って拭き取った布をまるめた状態にして、30分ほどお茶して休憩をとって戻ってきたら、布が焦げて燃えそうになってたんだ。もちろん布は日陰においていたんだけど、自然塗料の油のせいみたいだ。自然塗料って工業系のものよりも危ないんだよ。

[ 月間住宅ジャーナル ]
エステでアロマオイルを使った布をドライヤーにかけて建築現場では、塗料や防水剤を使った布や手袋をビニール袋に入れて放置しておいて出火することがあって、埼玉西部では年間で1軒か2件起きているそうです※。

[ 守谷 ]
塗料を吹いたタオルや手袋は、塗料をつけたまま丸めておかない。まるめたり袋に入れておくと蓄熱して危ないから、使い終わったら水に浸してからひろげて日陰の上の土の上で乾燥させておくということが一番の火災予防だ。


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木づかいのコツ あやとりの原理で強度アップ – 『月刊住宅ジャーナル』2019年12月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2019年12月号で紹介されました。以下に転載します。
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新連載 直伝 木づかいのコツ あやとりの原理で強度アップ

第11回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 月間住宅ジャーナル ]
守谷建具の木工建具では、桧材の木表と木表を張り合わせてて、ドアの表面にも木裏を使うそうですが、どうしてなのでしょうか。

[ 守谷 ]
木表と木表同士を組み合わせるということは、伝統的な木造建築はもちろん、橋梁や超高層タワーの技術にも相通じるところがあるので一つ一つ説明しよう。
最近では利用が少なくなっているが、根曲がりの松を天井裏でみたことはあるだろうか。例えば農家の納屋の天井なんかでよく見かけるむくれた梁(はり)があるだろう。

[ 月間住宅ジャーナル ]
古民家などでたまに見かけます。地松(じまつ)の梁ですね。

[ 守谷 ]
その梁は、上向きに曲がっているか、それとも下向きに曲がっているか?よく注意して見てみると上向きに曲がっていて屋根を支えているんだ。もし、これを逆の下向きにしたら、建物の構造は弱くなってしまう。だから、昔の大工は曲がっている方を上向きにしてつけたんだ(図参照)。
これはダムの構造と同じだ。川の水をせきとめるためにダムは上向きに反っている。
むくり木の反発する力を梁や床組に利用すると強度に優れた木組みを作ることができる。これは無垢材を使った無垢建具でも同じことだ。反りがでる木を2枚逆向きに組み合わせて1本の框(かまち)を造れば、框の反りがなくなる。同じことは、橋でも言える。
吊り橋は、ワイヤーを支柱で留める構造が一般的だ。しかし、瀬戸大橋のような超大型の吊り橋になると、ワイヤーを支柱で留めると、風の揺れに支柱がワイヤーで引っ張られる。そこで瀬戸大橋では、支柱をつらぬいてワイヤーを通してその上で留めるようにした。こうすると風で揺れてもプラスマイナスゼロで、引っ張る力がゼロになる。引く力が押す力に変換されるため強度が増して支柱の負担が減るんだ。
これを守谷建具では「あやとりの原理」と呼んでいる。例えば一本の支柱に穴を通して、反対側に引っ張ると、引っ張られたものが反対側に動くだろう。
こうした反発の力を反対にそる力に変換する構造体が東京スカイツリーだ。あの構造体もねじれていて、スパイラルで力を変換しているんだ。
最新の建築物もそうだが、堂宮建築でも同じことが言えるそうだ。五重塔のような建物では、ほぞを穴に入れる時は、低層ではあえてゆるめに入れておくと、高層に積み上がるに従って重みでしまってくる。塔が風に揺れると木がねじれながら乾燥するのでしだいに締まってくるんだ。昔は生木を使っていたから、今よりも自然の木の反りやねじれの力をうまく利用しようとしていたんだ。
こうしたあやとりの原理の力学を応用して開発したのが、守谷建具の耐震パネルだ。一つは垂直・水平の杉の格子に鉄筋を斜めに入れているタイプで、これは住宅よりももっと耐力の必要なビルなどの建築物向けだ。もう一つは鉄筋を使わずに杉の格子を斜めに使ったものだ。住宅のパネルにも応用することができる。

[ 月間住宅ジャーナル ]
漆喰の下地に入れる小舞(こまい)を巨大化して、筋交いのように斜めの角度にしたようなパネルですね。一定の耐力が期待できます。

[ 守谷 ]
あやとりの原理は、フラッシュドアの芯材にも応用することができる。一般的なフラッシュドアの芯は横に入れるが、守谷建具では反っている芯桟を3寸(約10cm)間隔で縦に入れてホチキスで留めて、ベニアを張って作っている。こうすると、それぞれの芯材の反りが互いに反発して引っ張る力をゼロにするので、強度に優れたドアを作ることができる。

[ 月間住宅ジャーナル ]
最近は小径木からとった木材が多く、芯桟も反りやすいので、反りの反発を利用することで強度に優れたドアができますね。

不燃紙・不燃木材の開発 特別寄稿 – 『月刊住宅ジャーナル』2019年10月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2019年10月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal-1910d2 )。

特別寄稿 不燃紙・不燃木材の開発

守谷建具 代表 守谷和夫

不燃木材開発のきっかけは、今から40年ほど前に、もとの作業所の床下の中央に積もっていた木くずが自然発火したことです。当時は発火の原因が不明でした。その後、地元の所沢で所沢駅前大火があり、原因は、食品店で翌日販売の天ぷらを前日に揚て山もりにしていたそうで、酸化作用により発火したそうです。現在ではたまに自然発火のニュースがテレビで放映されるので、多くの人が知っていると思われますが、木くずの油分は、ごくまれに自然発火するのです。これは木工所にとって知って置かなければならない知識です。
現在まで木材の不燃に関しては、色々な実験をしてきましたが、いくつかの結論にたどりつきました。不燃木材の欠点は、一つ目はコスト、二つ目は製作から3年~4年後に起きる白化現象でしたが、薬剤のコストは下げることができました。1Lあたり50円~100円でできるようになりました。白化現象を防ぐ決め手は薬剤濃度です。濃度5%~10%であれば白化現象は起きません。
和紙の不燃化で気づいたのですが、和紙の状態では薬剤濃度で約30%が必要でした。パルプの状態では、5%~8%の濃度で不燃化ができました。木材をパルプと同じ状態にすれば実現できます。今まではどこのメーカーでも杉の白太部分を使用して製作しています。全体の80%は注入できますが、濃度が濃いので白化現象は防げませんでした。今までは杉の乾燥材を150℃で加熱し、真空に近い状態にすることによって細胞破壊ができました。「第47回日本木材学会発表1997年 守谷和夫 守谷建具店 実用機」は、埼玉県のフォレスト西川にあります。しかし、時間とコストがかかり、細胞を完全に破壊することは不可能でした。他の方法として生木または乾燥材白太に水分を注入し、加熱後に体積を4分の1に圧縮し、水分を絞り出し、元の体積に戻る作用を応用して不燃材を注入しましたが、完全な不燃化にならず白化現象が起きました。
新しい方法は、加熱減圧の改良です。NHKの朝のドラマのインスタントラーメンの初期の乾燥方法と同じ天ぷら乾燥です。木材の乾燥技術として、パラフィンを80℃から100℃に溶かし、木材を天ぷら状態にすることにより、内部割れもなく、急激に乾燥させる技術が紹介されました。この技術を応用することにより、他の方法で急激に絶乾状態にできることに気づきました。ここでの細胞は、急激に絶乾状態にすることで、破壊されます。
和紙を5%から8%の濃度で不燃化させるには作り方のコツがあります。楮(こうぞ)の皮を微細な繊維にするために、木づちで叩くことにより、細胞が破壊されて強度が増し、不燃化できるのです。木材も同じ植物繊維なので、同じ状態にすればよいのです。
木材の細胞内部に5%~8%の不燃薬剤を完全に注入する方法は、減圧と加圧を同じ容器の中で同時に行うことです。減圧は真空に近い状態を増幅することはできません。しかし、加圧は機械的に増幅することができて、真空状態に耐えれば、圧力容器は不要です。木材には圧力はかかりますが、容器にはかかりませんので、破裂しないので安全です。容器のコストはかかりません。減圧と加圧を同時に行うことにより、薬剤を細胞にからませることができます。
この加工技術は他の木材化学加工にも応用できます。
和紙または紙の不燃化技術は無償で開示しますので利用してください。木綿の布にも応用できると思います。また、木材高度加工技術についてもご相談ください。

木づかいのコツ 木工機械の独自開発術 – 『月刊住宅ジャーナル』2019年10月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2019年10月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal-1910d1 )。

新連載 直伝 木づかいのコツ 木工機械の独自開発術

第10回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 月刊住宅ジャーナル ]j
今月号では、守谷建具の木工機械に注目してみたいと思います。どのような機械があるんですか。

[ 守谷 ]

  • 守谷建具では、主に、これだけの木工機械がある。
  • NCルーター (5軸/シンクス製)
  • ダボ堀り専用機 (アイキューワン製)
  • ワイドサンダー (Micro製/イタリア)
  • 直角二面かんな
  • 角のみ盤
  • みぞ突き機
  • ホットメルト式エッジパンダー
  • 集成材機(最長4mまで框の集成が可能)
  • 8軸モルダー(飯田工業製)
  • プレス機
  • 自動かんな

これらの木工機械のうち、最近使わなくなったのは、8軸モルダーとエッジパンダーだ。10年前にフラッシュドアから無垢建具に主力製品を変えたから、今ではフラッシュドアを作ることがなくなって、縁貼り機(ふちはりき)がいらなくなった。
木工機械というのはちょっとした条件の違いですぐに気難しくなる。輸入機械なんかは特にそうで、このイタリア製のワイドサンダーもそうだ。イタリアは日本よりも気候が温暖だから勝手が違うそうだが、冬になると毎年ベルトが外れてしょうがなかった。ところが、ガムテープをベルトの内側にはったら、ピタリと直った。機械メーカーも色々試したが、原因不明ということだったから、自分で色々試してみて調整しないと、うまく動いてくれないんだ。
一番高額な機械は、NCルーターだ。これは今から30年前に導入したものだ。当時の新鋼工業(現在のシンクス)の話によると、建具屋の建付加工用途としては国内第一号機で、電気工事、刃物、他の部品含めて約4000万円だったから、他の木工機械と比べても大体10倍近い金額がするわけだ。
一般的な木工屋と違うのは、うちは木工機械の位置をしょっちゅう変えて、作業効率の一番いい位置にしているんだ。ただし、このNCルーターは30年位置を変えていない。加工精度を安定させるために、住宅のようなコンクリートの基礎を打設しているから他の位置には変えられないんだ。
最近は、うちのせがれが「守谷インテリア木工所」という屋号にしているんだが、自分の名刺には「NC工房守谷建具」って名称をいれているんだ。だからNCルーターは、今でもうちの主力の木工機械だ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
NCルーターやダボ堀り専用機は、守谷建具のオリジナル設計ですね。今月号ではオリジナル機械の開発について詳しく教えてもらえますか。

[ 守谷 ]
今、見積もりをとって開発中のマシンもあるし、共同事業者を見つけて広めていきたい機械もあるから、色々紹介するよ。

NCマシンのシステムを独自に開発

[ 月刊住宅ジャーナル ]
一番最初の開発から順を追って教えて下さい。

[ 守谷 ]
最初の頃は、特許も出していなかったから、正式な開発者とは呼べるかどうかは分からないが、木工機械の業界に影響を与えたものに、NCルーターのテーブルの原点の位置がある。
30年前にNCルーターを導入したときは、X軸、Y軸、Z軸の3つの軸の原点の位置がテーブルの中央にあったんだよ。中央にあると、プログラムが大変でね。やりにくくてしょうがないから、機械の勉強の時に、俺が原点をテーブルの左角にすることで、位置決め作業が3分の1に軽減できた。新鋼工業の技術の人が来たときに「あれ動かない」なんて言ったから、「俺が変更した」って言ったんだよ。
それがきっかけで、原点の位置が中央から角に代わって、数年後にはどこのメーカーもNCの原点の位置を変えるようになったんだ。この話は、今から10年ほど前に、業界の裏話で教えてもらったんだよ。
NCルーターは、主軸のパッキンが破損したので、テーブルを外してあるが、この定規は0.1mm~4.0mmを調整するためにオリジナルで制作して取り付けたものだ。それとテーパーがんなも取り付けた。これはNCルーターでドアの大手を入り勝手に削るためのものだ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
こんな特殊なNCルーターは今まで見たことがありません。

[ 守谷 ]
もともと、この機械を導入したきっかけは、建具の建込みで、鉋(かんな)と鋸(のこぎり)を使っていて腱鞘炎(けんしょうえん)になったことがきっかけなんだ。当時はフラッシュドアだったんだけど、とにかく建具の枠材がまがっていて調整が大変だったんだ。腱鞘炎で鉋がもてないから、建付け前に当時最新のロボットの機械でドア枠の曲がりを正確に合わせようと思い導入したんだ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
どうやってゆがみを正確に測るのですか。

[ 守谷 ]
こんな風にプログラムを組んだんだ。
(紙で図を描く)
NECの初期のコンピューターの9801に、自由曲線を描くシステムをつくって、このカーブを区切って1,2,3の数値に置き換えていく。建具が0.3ミリ曲がっていれば、区切り部分の直角三角形を計算して、削り出す寸法を算出するサブプログラムを作ったんだ。この入り勝手(いりかって)を削るためにテーパーかんなもつくった。
つまり、現場で建具職人が経験と勘で決める1厘(りん)とかの建て込みの微調整をロボット(=NC)が数値化して測定して、削り出すという仕組みだ。これで建込みの作業効率がものすごく良くなった。60坪の家で建具が200本あった家があったが、NCを導入したおかげで2人で1日で終わらせることができるようになった。
こういうNC加工の技術は、今の建具職人が不足している時代には必要なことだと思うよ。
ただし、建具屋にとってはこの技術は難しくて、まともに使いこなせる業者が、今までうちしかいなかった。使えないと結局クレームにつながるから普及しなかったんだ。
うちの所沢でも以前は20軒も建具屋があったんだが、材料から木製建具を作っているのは今ではうちだけになってしまった。だから、高度な機械をもっと簡単に使えるノウハウが必要なんだろうな。

人工知能付きミゾ加工機の開発に挑戦

[ 月刊住宅ジャーナル ]
現在も新しい木工機械を開発しているんですか。

[ 守谷 ]
今、メーカーに見積を出してもらった所だ。ミゾ加工機の人工知能化だ。これはうちのせがれが詳しいから呼んでくる。
これからの木工機械の開発で必要なことは、安全対策だ。木工屋では指のない職人が多いだろ。それはかんな盤なんかで指を滑らせて刎ねてしまうからだ。
今の木工機械の最新技術というのは、大型で高額の機械に集中している。大型の機械が国の補助金の給付を受けて導入が進んでいるが、小型の木工機械はすっかり進化が止まったものと思われている。
もちろん今の木工機械は消費者保護のために昔のものよりも安全対策はついているよ。でもこれからは高齢者や若手の入植者のためにもっと高度な安全対策をほどこした方がいいと思うんだ。木工屋は指のないのが当たり前なんて思っていちゃだめなんだよ。
[ 知 ]
守谷知(とも)です。前職では、精密機械の故障検査用のスキャナーの開発をしていました。(注1)

[ 守谷 ]
今、木工機械のメンテナンスは、知(とも)にまかせている。音を聞きいただけで機械の故障箇所が分かるから助かってるんだ。

[ 知 ]
音で分かったっていうのは、たぶんNCの給気バルブ1ヶ所切れてた時のことだね。あれは音を聞けば分かります。
木工機械では、どこが壊れているかということを見つけることも大切で、見当違いの修理相談すると、修理工具を間違えてもってくることがあるんですよ。

[ 守谷 ]
守谷建具の作業で一番あぶないのは、手押し鉋(がんな)でやる作業だ。木工メーカー、安全対策のためにかんな刃にカバーを付けることが義務付けられているが、実際の現場では大きな部材を加工するので、作業のじゃまになるからとってしまうことが多いんだ。
だから、手押しかんなの刃の上にはいつも合板の3ミリを両面テープで固定して、かんな刃が手でふれないようにしている。
もう一つのあぶない所は、みぞをついている時に木が跳ね飛ばされてしまうことなんだよ。木が跳ね飛ばされたり、勢い余って自分がカッターの刃に突っ込んでしまったりする。
そこで開発したいのは、ミゾつき機の改良版だ。例えて言うとジャンピングソーっていう、カットソーのようなものがあるんだが、ジャンピングソーのように半自動化するための仕組みだ。
開発のポイントは、二つある。一つは手押しかんなのローラーを人間の手のような形にして木材をよりしっかり抑えることができるようにしたことだ。
もう一つは、スキャニングのカメラをつけてみぞ突きの位置を読み取れるようにすることだ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
読み取り機はどうやって開発するんですか。

[ 知 ]
読み取り機能は、既製品がいくつかあるのでそれを利用します。最初は音声の読み取り機能を考えていたんだけど、木工所の作業場は騒音がひどくて聞き取ることができない。次に線を読み取る装置を検討しました。でも建具の部材には書き込みが結構多いから、モノクロを読み込むだけじゃ判別できない。そこで青や赤の線だけを読み取ることができる装置をつけるようにしてNCマシンのシステムを独自開発します。
問題は、このカメラの取り付け位置です。材料を振り回してぶつけてしまわないかとか、機械の振動で読み取り精度が落ちないかとか、木くずがついたカメラやレンズふいて傷がつかないか、やっぱり手動でやった方が早いのではないかとか、色々な課題があるので、それらを一つ一つ解決している所です。

注1 本人ではなく、守谷和夫へのインタビューに基づいた記者氏の解釈による紹介文です。この紹介文は間違ってはいませんが、実態とは離れています。