医療用の木製車椅子を試作 ドイツの医療機器展示会MEDICAに出展 『月刊住宅ジャーナル』2015年12月号掲載

『月刊住宅ジャーナル』2015年12月号に掲載されました。
以下に転載します。原文はこちら(PDF)。
守谷建具店による解説はこちら(MRI用木製車いす試作品完成)。

医療用の木製車椅子を試作
ドイツの医療機器展示会MEDICAに出展 守谷建具店(埼玉県)

建具や家具といった住宅や建築物のインテリアを製造している木工業においても、今後は高齢化社会に向けて福祉分野への進出が求められている。
守谷建具店(埼玉県所沢市)では、このたび、ヒノキ製の合板を用いた医療用の車椅子の試作に成功。報道機関に公開された。
この車椅子の車輪と基材は、12mmのヒノキ合板を3枚に重ねて真っ平に研磨して34mmの厚みに加工している。重量は約20キロほど。150キロの重さにまで耐えられるように設計されている。手すり部分にブレーキがついている。また業界で”パッチン”と呼ばれている収納箱などに用いられている金具を用いて半分に折りたたむことができる。

[医療機器向けに試作]
この車椅子の用途は、医療機器用である。強い磁性を用いて特殊な検査を行う医療機器(MRIなど)を導入している病院施設では、機器の故障を避けるために磁性を持っ金属を検査室に近づけることを禁じている。患者には身につけている金属を全て外してもらった上で検査している。ただし、車椅子を使用している被験者の場合、車椅子の金属が機器の磁性に反応するので、これまで検査室では車椅子を使用することができなかった。そのため医療機器内部の高性能な磁力が反応しない車椅子が求められていた。
こうした特殊な用途のため、製造時には全ての金具で磁性の数値検査を行い、問題がないことを確認してから出荷する。また、車軸は金属性のべアリングの代わりに樹脂性の軸を3Dで設計。耐久性を高めるために、ホイール部分だけが回転して軸が磨耗しないように設計した。

[世界中の医療現場が注目]
この車椅子は11月にドイツで開催される医療関連機器の世界最大規模の展示会MEDICAで参考展示を行う。また木材加工の新しい可能性を示す製品として、11月11日~14日にかけて開催された日本木工機械展において参考出展される
ドイツでの展示に備えて、特に入念にチェックが行われたのは耐久性である。西欧人、特に北欧の場合、骨太で背丈の高い体型が多く、体重が100キロを超える人は珍しくない。車椅子における座席部分を100キロ超の耐荷重とすることは技術的に難しいことではないが、問題は車椅子の前部下についている足置きの箇所の耐久性である。このペダル大の大きさの部材に体重をかけて乗り降りするたびに100キロ超の荷重かかるので、ここの部分を磁性を持たない木材で仕上げることは難しい。そこで、耐久性の高い木材と強い磁力でも反応しない特殊ステンレスの金物を組み合わせて、試作品の実験を繰り返して耐久性に優れた型を作り出した。
木材加工に関しては、ヒノキ合板の小口加工のために新しい刃を新調した。一般的な平刃のスパイラルでは刃が小口に通らないので、斜めにギザギザがついていて小口加工に適したスパイラルを採用している。
こうした医療機器を病院に卸している商社によると、磁性を持たない木製の車椅子は3年ほどかけて試作が行われてきた。今回の共同試作において全てのパーツで耐久性・品質性・安全性・生産性における課題をクリアしたことで、医療用機器としての水準を満たす目処が立ったという。守谷建具店では、木工産業の新規需要の拡大を目指して、今後は一般的に用いられる木製車椅子の試作を考えている。

月間住宅ジャーナル
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MRI用木製車いす試作品完成

 


動画コンテンツ ( youtubeで見る ), 写真は記事の下部

開発を進めていたMRI用木製車いす試作品完成しました。「MRI用木製車いす」とは磁気共鳴断層撮影の撮影室に持ち込める磁力に反応しない車いすです。
特に金属製MRI用車いすと比べて、木製車いすは(磁力に反応する)鉄製車いすと判別がし易いのです。もし、金属製MRI用車いすと間違えて鉄製車いすを撮影室に持ち込んでしまうと。車いすが飛びます。
素材はヒノキの構造用合板(岐阜県森林組合連合会)となります。

試作品完成にに合わせて日本木工機械展 ウッドエコテック2015 、木製車いすを会場に設置します。11月11日から12日までの間、会場内で自由に使用して下さい。

2015-12-11 追記 解説記事が出来ました。 『医療用の木製車椅子を試作 ドイツの医療機器展示会MEDICAに出展


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国指定重要無形文化財 江戸三大祭り – 佐原の大祭で見た木材の耐衝撃性『月刊住宅ジャーナル』2015年9月号掲載

『月刊住宅ジャーナル』2015年9月号に掲載されました。
「国指定重要無形文化財 江戸三大祭り – 佐原の大祭で見た木材の耐衝撃性」(原文(PDF))。以下に転載します。
守谷建具店による解説はこちら(山車の車輪(ハンマ)の製造工程)。

国指定重要無形文化財 江戸三大祭り
佐原の大祭で見た木材の耐衝撃性

[守谷建具店が挑む車輪作り]
関東三大祭りとして知られる佐原の大祭(さわらのたいさい)。毎年7月と10月に千葉県香取市で開催されるこの祭りは、埼玉県越市などと並んで「小江戸」と呼ばれた佐原の江戸文化の名残を今に伝えている。利根川対岸の潮来と同様、水郷の街として栄えた佐原では記録によると18世紀(享保年間)から山車祭りが開催されている。
山車は全体が高さ9m、山車だけで5m、人形で最長4m。重さは4トンを超えるという巨大な造り。25町それぞれが自慢の山車をもっていて、祭神などの人形や鯉をあしらった山車彫刻が見ものである。江戸の祭りに負けじと築き上げた利根川水運で栄えた佐原の絢爛豪華な山車祭りであり、国の重要無形民俗文化財に指定されている。

[進化する山車の技術]
こうした伝統色豊かな佐原の大祭の舞台裏では、より安全性を高めるための木工技術の進化も進んでいる。特に重要なのは地元で「ハンマ」と呼ぶ山車の車輪の製法である。この車輪は山車の下に鉄筋を通して留めるもので、昔から変わらない伝統の木製車輪であるが、素材や製法はより耐久性を高めるために変化してきた。
水源佐原山車会館に展示されている古いハンマを見ると、おそらく地松だろうか。松科の木材を十文字に接合してその間に8等分した同材料をつないで接着して木ねじで留めている。木材同士もバラけないように召し合わせて継いでいる。直径は1m。戦前はこの太さの地松が入手できたので筒切りにして使い、使わない時期は泥田に漬けて保管していたという。その後、松の大木は入手困難となり、ケヤキの丸太を用いたが、それもしだいに減って高値となり、近年ではケヤキの集成材を用いるようになった。ケヤキ(欅)は昔から神輿や和太鼓に用いられる広葉樹の材料で硬い材質が特徴である。
ところがケヤキの集成材でも駄目だという声がいくつかの町から出てきた。何と接着剤で集成した箇所がはがれてくるのだという。ハンマ(車輪)の寿命は20年から30年というが、数年で隅が削れて変形するので、磨ぎ直すうちに直径1mが80cmまで減って取り換えとなる。なぜこれほどハンマが痛むかというと、山車は単にまっすぐに進むのではない。道路の角になると町内の下座連30人が力を入れて山車を回す。特に「のの字廻し」といって左前の車輪を軸として筆で「の」の字を書くように山車を数回転させるのが見どころで、最大4トンの重みが一個の車輪にかかるのだから傷みがはげしい。そうした曳き廻しを年2回繰り返しているうちに、30年はおろか10年持たせるのも難しいので丁寧なメンテナンスが欠かせないのだ。

[集成材がはがれない車輪]
「絶対にはがれない車輪にしてほしい」というゼネコンからの依頼で、埼玉県所沢市の建具屋「守谷建具店」が引き受けることになった。本誌では、その耐久性に優れた車輪づくりの製作過程を迫った。

[1. 材料の選定]
材料は製作マニュアルである「木製車輪製作組立完成図案」で指定がある。車輪の表(ホイール部分)には、欅の天然木・無垢の板目材、込み栓には赤樫芯材を用いる。
車輪のコア材(芯材)には、欅芯材又は赤樫芯材以上の硬木(海外材でも可とする)。比重はホワイトオーク(強度7~0.75)以上の比重。守谷建具店では表面材には、伝統のケヤキの無垢板目材を採用。芯材についてはアッシュの集成材を用いることになった。アッシュは北米東部やヨーロッパで産出する木材で強度はハードメープルと同等。衝撃に強いことから、プロ野球のバットに用いられることで知られる。比重はヨーロピアンアッシュで0.70で指定の比重をクリア。

[2. 表面の研磨]
材料はケヤキとアッシュで硬いので少しずつといでいく。丸ノコと昇降機でとって、ルーターでとるためのけびきを設けた。込み栓は引き戸につり車を埋め込む道具を応用して埋め込む。ケヤキを集めて仮木どりをする。36°ずつ一回りの寸法。平に削って一ヶ月養生。多いと1ミリ狂いが出てくるので、まっすぐに削り直す。パネルソーでとってワイドサンダーでベルトを上げながら2時間かけて研磨した後にNCルーターで丸く抉る。研磨してピッタリさせると空気を出すので、重ね置きする際にふわっと置けるのが特徴。

[3. 接着剤の選定]
コニシ提供のポリウレタン系接着剤を両面につけているのがポイント。ポリウレタン系は真っ平でない場合に補う接着剤。レゾル系よりも火に弱いので日本では建築用で使わないが、欧米では主流。発砲するのが特徴で衝撃に強い。

[4. 鑿でぶち割る]
水に一か月漬けた試験体で耐衝撃性を実験。黄色いのはポリウレタンではったケヤキ。ノミを打ち込むと接着面にノミが食い込んで止まってしまった。ノミ6発後にようやくはがれた。一方で片面塗りはノミ一発ではがれてしまうほど衝撃に弱かった。寸法をはかると水につける前と比べて0.5ミリずれている。

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山車の車輪(ハンマ)の製造工程

江戸三大祭りである佐原の大祭の山車。その山車の車輪(ハンマ)を制作しました。直径100cm、重量170kg。4トンを支える大荷重用の車輪です。
製造工程を動画として公開します。焦点は木材で堅牢性・耐衝撃性を確保する技術です。


動画をYoutubeで見る

山車の車輪(ハンマ)
動画中の資料(PDF)

山車の車輪(ハンマ)
拡大画像はクリック

関連する情報として、専門誌の取材記事を紹介します。
国指定重要無形文化財 江戸三大祭り – 佐原の大祭で見た木材の耐衝撃性『月刊住宅ジャーナル』2015年9月号掲載

木板とセメントによる放射線透過抑制ボード『ウッドミック』2015年2月号掲載

『ウッドミック』2015年2月号に掲載されました。以下に転載。

守谷和夫氏は建具職人の顔の他に、巷の発案・発明家としての顔も知られている。守谷さんが東電の福島原発事故以来取り組んでいる放射線遮蔽建材の開発状況についても知らされた。不燃建材開発の折に採用したホウ砂とホウ酸を活用してセメント等と反応させて固めた薄いボードがセシウム等の放射線を遮蔽するという事で、早く実用化して原発現場はもとより福島を始めとする住民の皆さんのお役にたちたいと一生懸命なのだ。守谷氏による試作ボードの公的試験結果も、特許申請資料として既に特許庁のホームページに掲載されインターネット上で公開されていると云うが、悲しいかな記者に専門知識が無く堂々と誌面掲載するには専門家の言質を必要とする為、今しばらく時間がかかりそうである。

さて従来、放射線透過抑制効果は鉛やタングステン等の重金属加工品類、コンクリート構成物体等、比重、質量、密度に起因する原理で実証されてきたそうであるが、守谷氏は石灰とホウ砂とホウ酸、水ガラスを混ぜて反応させ、安価で軽量な放射線透過抑制ボードを手作りして大学と公的試験研究機関で実証実験したところ、放射線透過抑制効果を発言する結果が得られ、新たな技術開発に繋がりそうだというのである。

要するに1.5mm厚の鉛板と守谷氏手作りの5.5mm厚ボードの放射線透過抑制効果が略同程度だという事で、新たな機能性を付与した住宅建材への展開が期待されるという話である。

表は守谷式モルタル(仮称)5mm厚さのガンマ線遮蔽率測定結果であるが、興味のある方は守谷氏(電話番号 042-948-2336 )に詳しく訊ねられたし…。

測定資料 線量率
( uSv / H )
遮蔽率
( % )
モルタル 8.99 ± 0.1 10.1

(安)

『ウッドミック』2015年2月10日発行 通巻383号、株式会社ウッドミック より一部改変のうえ転載(原文は次ページ以降参照のこと)