守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2021年10月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal_2110d1.pdf )。
不動院の増築・改修工事が完成(埼玉県入間市) 一枚板の無垢建具を多数採用
(株)池田建築 / (有)守谷建具 / (株)安田設計 / (株)石田設計事務所
埼玉県入間市の寺院で増築・改修工事が行われ、今年7月に完成。金色に彩られた須弥壇(しゅみだん)で完成記念の法要が営まれた。
江戸初期の創建と推定される寺院で、地元では不動院という名称(正式名称:源光山明王寺不動院)で知られており、不動明王を本尊として祀っている。大正7年(1918年)の火災で全焼した後、大正13年(1924年)に本堂・鐘楼堂を再建。昭和43年(1968年)二度目の本堂再建。そしてこのたび、老朽化が進んだことや、大勢の利用者を収容することを想定して、増築・改修工事を実施。工事は(株)池田建築(埼玉県入間市)が4代にわたり手掛けている。
増築としては、既存の本堂部分を新たに外陣(がいじん)とし、新たに内陣(ないじん)と須弥壇を増築、新設廊下を設けた(図参照)。改修工事では、漆喰(しっくい)を塗り直し、建具(たてぐ)を入れ替えたほか、耐震性を高めるための工事が行われ、外陣と内陣の間に立つ既存丸柱(直径240mm)はそのまま活かして、外陣及び既存廊下の既存壁の一部を耐力壁に改修、既存開口部を新設耐力壁に改修、柱を新設した。また、既存の屋根瓦を軽量の金属瓦(セキノ興産製)に葺き替えた。天井と床には断熱材としてグラスウール100mmを敷きこんだ。
無垢建具を多数新設
今回の増築・改修工事の特色の一つとして、5枚建の引き違い戸など多数の無垢材(むくざい)を用いた建具(無垢建具)を採用しながらも、一般的な建築工事費レベルの予算(約1.5億円)で実現することができたということが挙げられる。
一般的な寺院建築では、木材にかかる予算が大きく、今回の工事では新設廊下・既存廊下・内陣の床材と、増築部分の化粧材全て及び改修部分の化粧材交換部材全てを米ヒバ材とした。それだけでも相当の費用となっているが、既存部分の丸柱・化粧梁をそのまま流用することで、大径材にかかる費用を削減し、既存の二重菱文様の欄間(らんま)もそのまま活かしている。一般的には柾目(まさめ)どりの一枚板を取るだけの大径材を入手することが困難であることなどから、寺院などで古くから用いられてきた板戸(唐板戸(からいたど))を新設することは珍しいが、ここでは約30枚の無垢建具を新設した。建具の本数(ここでは枚数)としては、参拝や法事に訪れる利用者が通る玄関、回廊、廊下、外陣、内陣、脇の間には、木製建具があしらわれており、それ以外の物置、水屋(みずや)、須弥壇、新設廊下、脇の間にはアルミサッシ(22枚)を設置。
屋外側に接する木製建具としては、回廊側と新設廊下に全部で14枚(うち硝子(ガラス)入り横桟引戸6枚、玄関硝子入り縦桟板引戸4枚、正面下手にドア1枚、新設廊下側に硝子入引戸2枚)を新設。
室内側の木製建具としては、板戸が全部で15枚(うち玄関こあがりの硝子入り縦桟板引戸4枚、内陣と脇の間を仕切る杉引板戸5枚、内陣ー仏間を仕切る杉板引戸2枚、内陣ー水屋を仕切る杉板引戸2枚、玄関左右の記帳台に舞良(まいら)戸2枚。
新設障子が全部で22枚(既存廊下8枚、外陣ー回廊6枚、既存廊下8枚、新設廊下6枚、脇の間4枚、外陣ー新設廊下4枚)。七宝文様の欄間2枚(内陣-脇の間の上部)も新設。
こうした木製建具のほか、アルミサッシ22枚を含めると全部で73枚の建具が新設された。また、既存部分に設けられていた欄間、火灯窓はそのまま活かし、墨絵(すみえ)の障子も再利用され
建具製作・設置工事を担当したのは(有)守谷建具。地元の建具店であり、近年では無垢建具を手掛けることが多い。同社の無垢建具は、木材の反り(そり)・変形の性質(反り返った木材はその後変形しない)を利用して、自然乾燥で養生しあらかじめ木材を変形させた後に、加工機等で削りなおして正寸に加工して製作するという、いわばハイテク無垢建具の第一人者として知られている。通常であれば柾目(まさめ)を利用する建具が、変形しやすい板目でも製作可能となるため、材料費の大幅なコストダウンが可能となる。
守谷建具によると、普段は住宅や店舗向けの建具製作が多く、寺院を手掛けるのは今回で3度目となる。過疎化と檀家減少により無垢建具の設置が予算的に難しくなった寺院から無垢建具の製作依頼を過去に受けたこともあり、図面に合わせて無垢建具を製造・地方発送し、地元の業者が設置工事を行う形での注文も受けているという。
建具技術の特色
今回新たに設けた技術上の特色として、守谷氏自身は、業務の傍ら、山寺のお堂を訪ね歩いて築年数ごとに胴付(どうつき)のすき具合を観察し、経年変化を調べて、特に外気や風雨にさらされる外回りの建具の対候性の強化を図った。
外回りの建具には、回廊突き当りの一枚ものの杉板(樹齢約千年)に、天然オイル(ドイツ製天然成分塗料と市販のオリーブオイル1.7リットル)をしみ込ませて耐水性・対候性を強化。
また、回廊の外気に面する建具の建て込みでは、通常はかかり代15mmのところを20mmとし、雨の吹込みによる劣化防止のために段違いとし、外に面する建具は通気性をよくするためにすき間をもうけた。レールは通常6~7mmのところを12mmとし、「寺の軒には草木も生えぬ」と言われるように触媒効果を出すために銅板を巻いた(写真)。
玄関両側の廊下は、法事の際の受付・記帳台などに利用されることが多い部位で、設計段階では、上にはね上げて開く蔀戸(しとみど)を想定していたが、近年では、吹き込んだ強風で跳ね上がってしまう事故もあるため、安全対策のため、内側に閉じて開閉できる舞良戸(まいらど)を設けることにした。木目の意匠としては、欅(けやき)や杉では、左右対称に組み合わせて目のきれいなところを残して製作した。
月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版)2021年10月号より転載