木づかいのコツ 木と地球環境の成り立ち – 『月刊住宅ジャーナル』2021年06月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2021年06月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal_2106d1.pdf )。

連載 直伝 木づかいのコツ 木と地球環境の成り立ち

補遺篇(其ノ壱)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 月間住宅ジャーナル ]
ごぶさたしておりました。その後、お仕事の方は、順調ですか?

[ 守谷 ]
元気でやってるよ。仕事の方は、店舗の改装工事で納品することが増えてる。今、コロナで不景気といっても、いいビルで空きが出ると、新しい店が入って工事をしたり、お客さんが来ない今のうちに改装工事をしとこうという店が結構あるもんだから、建具の注文がよく来てるよ。先を見越して見ると、今が準備の時期なんだろうな。

[ 月間住宅ジャーナル ]
ところで、建具屋さんにこういう質問をするのもなんですが、木材というのは、なぜ地球環境の保全にいいのでしょうか。

[ 守谷 ]
木材がなぜ地球環境にいいのかってことは、よく見学に来たお客さんに説明するよ。意外と知らないみたいだし、みんな同じことしか知らないから聞いて驚くようだよ。

[ 月間住宅ジャーナル ]
木には二酸化炭素の蓄積効果があるとかですか?

[ 守谷 ]
そうそう、特に業者の人は、決まりきった予備知識があるだけで理論的な説明と理解ができていないんだ。
理論としては、まず、これだけは覚えておいた方がいいことがある。それは、「ゼロの法則」だ。

地球環境~ゼロの法則

[ 守谷 ]
「ゼロの法則」というのはこういうことだ。
まず、木材は二酸化炭素を蓄積している。それをもっと具体的に説明すると、こんな過程となる。
まず、木は光合成をする。光合成に必要なのは、酸素と水と、太陽の熱と光だ。杉の木の場合は、30年から40年までは育ちざかりで、光合成が活発なのでよく育つが、50年、60年、100年、500年、1000年と経ってくると、光合成の力が鈍ってくるから、育ちが悪くなって目が詰まってくる。

[ 月間住宅ジャーナル ]
目が詰まると硬くなるから木材には有用かもしれませんが、光合成の力が落ちるから、早く伐採して使うことが推奨されていますね。

[ 守谷 ]
そんな木を40年で伐採して、薪や発電に使うとする。燃やすと何が出てくる。

[ 月間住宅ジャーナル ]
ええと、熱と二酸化炭素でしょうか。

[ 守谷 ]
炭素(C)が、空気中の酸素(O)と結びついて、不完全燃焼すると一酸化炭素(CO)になり、完全燃焼すると二酸化炭素(CO2)となる。
燃やすと熱が出るのは、光合成をして育った時の太陽工ネルギーの蓄積として熱を発生するんだ。
つまり、木が燃える時に使う酸素とは、木が光合成をして作ってきた酸素に等しい。そのために、木が燃えると工ネルギーがプラスマイナスでゼロになる。これが、「ゼロの法則」だ。

[ 月間住宅ジャーナル ]
燃焼する時の熱というのは、もともと太陽の熱だったんですね。気づきませんでした。

[ 守谷 ]
しかし、木は単純に育って燃えて差し引きゼロになるだけじゃない。なぜなら、他の星にいくと酸素がないが、地球には酸素がある。これは一般的に植物のおかげだと言われているが、どうして酸素が増えていったのか説明できるか?

[ 月間住宅ジャーナル ]
植物は二酸化炭素を使って酸素を出すからですか?

[ 守谷 ]
「ゼロの法則」から言えば、光合成による成長から伐採・利用・燃焼に至るまでの過程では、熱と水と酸素・二酸化炭素の量は差し引きで等しくなるから、酸素が増えるという説明はつかない。
手がかりになるのは、植物が発酵する過程だ。木や植物が腐るには、菌を必要とする。菌がモノを腐らせるのに使うのが酸素だ。
例えば、しょうゆや味噌や日本酒を作るのには、大きな樽に入れて発酵させる。
発酵すると、表面に泡がぶくぶくと出てくるだろう。あの泡は二酸化炭素だ。発酵菌が二酸化炭素(炭酸ガス)を出しているんだ。
この時に菌が使う酸素の量は、光合成で使う酸素の量とほぼ同じだ。しかも、発酵とは、酸素を消費しない呼吸(嫌気呼吸)でもあるんだ。

[ 月間住宅ジャーナル ]
お酒の工場で泡がブクブクしているのをテレビで見たことがありますが、あれは地球環境問題の解決の手がかりだったんですね。

[ 守谷 ]
食品としてうまく発酵させるのには、ある程度の酸素も必要とする。だから、味噌やしょうゆや酒づくりでは、樽の中をかますんだ。かきまぜると中に酸素が入るから発酵が進んできて、二酸化炭素(炭酸ガス)が出てくる。
そうした発酵によってできあがったアルコールは地球にやさしい燃料と言える。アルコール燃料は燃やす時に酸素を使うが、発酵する時に酸素をあまり消費しないから、全体的に二酸化炭素の排出量が少なくなるんだ。

[ 月間住宅ジャーナル ]
バイオエタノールが環境にいいといわれるのは、発酵のおかげで、ライフサイクルにおけるCO2の排出量が少ないからなんですね。

[ 守谷 ]
一方で、石油も石炭も、もともとは、植物が朽ちてできたものだ。地球に多くの酸素があるのは、石油や石炭のように、かきまぜられることなく、酸素をあまり消費しなかった化石資源が地下に眠っているからなんだ。

[ 月間住宅ジャーナル ]
つまり、地球に酸素が多いのは、光合成や腐敗・発酵のおかげで、酸素を消費する量よりも、生成する量の方が多かったからなんですね。

[ 守谷 ]
しかし、産業革命以降、人間は、地下の化石燃料を燃焼させることで産業を発展させてきた。
石油や石炭は、アルコールなどに比べると、密度がずっと高くて、酸素が少ない環境で長年堆積してできたもんだから、燃焼するとものすごい量の酸素を使うし大量の炭酸ガスを発生させる。
例えば、炭を作るために炭焼き小屋で焼くときは酸素をほとんど使用しないので炭化して残るが、燃焼時に大量の酸素を必要とするから、一酸化炭素中毒のおそれもある。
だから、石炭火力や、原油を燃やす火力発電はダメで、バイオエタノールを使うのが環境にいいという説明がつくんだ。

[ 月間住宅ジャーナル ]
ゼロの法則をよく理解していないと説明がつきませんね。

[ 守谷 ]
をれにコンクリートを使うと環境に悪くて、木を使うと環境にいいということも理論的に説明がつく。・コンクリート(セメント)というのは、原料に石灰岩といって動植物(プランクトン)が堆積して石化した材料を使う。コンクリートのもとは、石灰岩だから、コンクリートの生成時には多くの熱エネルギーを使用して炭酸ガスが発生する。
だからコンクリートは環境に良くないということだ。

[ 月間住宅ジャーナル ]
地球の46億年の歴史と生命活動の蓄積によって人間が生きていることを実感させられますね。

月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版)2021年06月号より転載