木づかいのコツ 外まわりの建具のコツ1 – 『月刊住宅ジャーナル』2021年07月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2021年07月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal_2107d1.pdf )。

連載 直伝 木づかいのコツ 外まわりの建具のコツ1

補遺篇(其ノ弐)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 月間住宅ジャーナル ]
地球温暖化の影響で住宅の材料には省エネルギー性のすぐれた材料が求められており、地域の建具店で製造する木製サッシにも注目が集まっていますが、天然素材だけにメンテナンスが難しいとも言われています。どういったことに課題があると思いますか。

[ 守谷 ]
窓や玄関など雨風があたる所につける無垢建具については、適切な処理をしないと劣化がしやすくなる。守谷建具ではこうした外回りに対応した建具があるが、他ではできないことが多いので、業界全体で技術の底上げを図る必要がある。
課題は大きく分けると三つある。ひとつは構造、次に木材の木裏・木表の使い分け、そして三つ目が、塗装の下地の木材の表面の加工だ。

構造上の課題

[ 月間住宅ジャーナル ]
住宅には構造力学はありますが、木製建具には構造力学上、正しい造りという話は聞いたことがありません。

[ 守谷 ]
木造住宅は伊勢湾台風の頃から大地震が起きるたびに法律が改正されて、地震に強い構造が進化していった。一方で、木製の建具は、昭和30年以降、構造的に大きな変化はない。サッシメーカーがどんどん大きくなって、開口部に使う木製建具が減り続けたこともあり、技術的には取り残されていった。
その結果どうなっているかというと、そこに立てかけてあるガラス戸を持ってみると分かるよ。

[ 月間住宅ジャーナル ]
ものすごい重いガラスですね。一人ではとても持てません。

[ 守谷 ]
それは今の住宅で一般的なLOW-E複層ガラス戸だ。大体40キロくらいある。
省エネ化が進む中で、サッシの高断熱化が進んで、ガラスも進化して、複数のガラスを重ねて間にガスや金属膜が入ったガラスが増えた。
その結果、どうなっているかというとガラスが重すぎるんだ。これでは普通の建具屋が持っている木製建具の技術では、ガラスを支える枠すら作ることができない。

[ 月間住宅ジャーナル ]
重いガラスを支えるにはどうしたらいいんですか。

[ 守谷 ]
支えるには建具の構造を変えなければだめだ。木製サッシを屋外で数年雨風にさらしてみれば分かる。一体どこから壊れていくと思う?

[ 月間住宅ジャーナル ]
おそらく台風や大雨がきた時に、木の枠がふやけて、ガラスから外れて壊れるんじゃないでしょうか。実は、拙宅の旧家の木枠のサッシはこんな風に壊れました。

[ 守谷 ]
そのとおり。木製サッシは下桟と框を継いでいる箇所が弱って、ほぞが腐って壊れるんだ。昔の木枠に単板ガラスをはめただけの窓ならろくな塗装もしてなかったから、雨風にさらされて濡ても雨天、晴天が繰り返されていたので、ほぞが腐ることはなかった。最近では異常気象により高温多湿が一、二カ月続くのでガラスの溝からの雨水でほぞが腐ってしまう。
木製サッシを雨にさらして傷めないようにするためには、もちろん庇を深くするとか窓まわりの設計上の工夫も必要だが、重要なのは、戸車の位置だ。木製サッシメーカーが作ると、元々ヨーロッパの技術だから、框を彫り込んで戸車をつけるんだが、これが良くないんだ。
重さ40キロもするLOW-E複層ガラスの重心がどこにかかるか考えてみればすぐに分かるだろう。

[ 月間住宅ジャーナル ]
図を描いてみれば一目瞭然です。ガラスの荷重が、下桟にかかります。

[ 守谷 ]
ガラスが重いのにそれを支える下桟が細いから、ガラスの重量は、下桟と框をつなぐほぞにかかってくる。雨に濡れてほぞの強度が落ちて、ガラスの重みもあって外れやすくなる。だから木製サッシは壊れやすいんだ。
だから、守谷建具では、こうした問題点を克服して、木製サッシを製造している。
まず、戸車は框ではなく、太くした下桟につける。
重量のある建具には、戸車を2カ所ずつつける。そうすると、ガラスの荷重がかかる直下の戸車で重みを受け止める構造になる。
框と下桟の接合部には、特殊な長ビスを取り付ける。ビスが増えると断面欠損が増えて劣化しやすくなるから1本で固定する。
守谷建具のような造りなら、木造住宅の構造の設計者でも納得するだろう。
こうした理論的な裏付けというのも、建具の業界では不足しているんだ。
建具屋の業界では、構造力学の知識はあまり必要なかったから、先代から教わった技術を守っている業者にとっては、新しい技術との融合によって異常気象に強い建具ができるようになって、未来に活路が見えてくると思う。

月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版)2021年07月号より転載