木づかいのコツ 外回りの木材の塗装 – 『月刊住宅ジャーナル』2020年08月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2020年08月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal-2008d1.pdf )。

連載 直伝 木づかいのコツ 外回りの木材の塗装

第16回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 月間住宅ジャーナル ]
第14回(4月号参照)では、守谷宅の外装リフォームを参考に、外まわりで木材を使用する際の注意点について考えました。結論から言えば、濡れやすい箇所には、木を使わない方が良いということでしょうか。

[ 守谷 ]
必ずしもそうではない。杉の赤身のように、ナノレベルで蓋(弁)がされていて、水が浸透しない材を使えばいい。また、それ以外の材でも、塗料を使って木材を樹脂化すれば、耐久性・耐候性は高まる。

[ 月間住宅ジャーナル ]
一定寸法の材から杉の赤身だけを選びだすということは厳密には難しいので、やはり塗料と組み合わせて性能を高める方法になるのでしょうか。

外まわり塗装のコツ

[ 守谷 ]
外まわりで使う場合には、塗装の仕方にコツがいるんだ。これはほとんどの業者が誤解しているんじゃないだろうか。
外まわりで塗装する場合は、木をつるつるにしちゃ駄目なんだ。木の表面をざらざらにしてから塗らないと、木が腐りやすくなる。
サンダーで研磨する時に、100番で研磨するとつるつるになるが、40番で研磨するとざらざらになる。両方に塗装すると、40番の方が、5倍くらい多く塗料を喰うことになるんだが、その方が、持ちが全然違ってくる。
例えていうと、北米の板壁みたいにするといいんだ。鋸引きのざらざらのベイスギ(杉科の木〔シダー〕)の板壁にペンキや自然オイルで塗装するだろ。ああいう風に塗ると木材にたくさん塗料がしみこむから木が長持ちするんだよ。
研究では、アメリカやヨーロッパは寒冷地や乾燥地だから、高温多湿の日本よりも木材が腐りにくく長持ちすると言われている。しかし、研究者は現場のことをあまり知らないのではないのだろうか。そもそも塗装する木材の表面が違うと、塗料の量が違って経年変化にも大きく影響してくるはずだ。

[ 月間住宅ジャーナル ]
一般的には塗装前にやすりで磨いて、目止め剤も塗ってから塗装するのが良いと言われていますから、のこ目が付いたままの板に塗るという欧米のやり方は全く異なります。しかし、塗料を何倍も増やして塗ることには抵抗感があるのではないでしょうか。

[ 守谷 ]
いや、日本では3~4回重ね塗りするので、塗料の量としては大きな差はない。だが、重ね塗りでは木材に密着しにくいんだ。
外回りに使うのは油性塗料が多いが、油をたくさん使うという発想は、日本の伝統工芸にもあった。和傘に使う油紙がそうだ。和紙は表面がざらざら、でこぼこだから、油を大量に吸い込んで、水をはじくようになる。ただし欠点としては、燃えやすくなる。板葺き(いたぶき)屋根や板張の壁に油を使わなかったのは防火のためだろう。植物油でも空気中で硬化するえごま油や椿油などでないと使用できないだろう。

無機系の可能性は?

[ 月間住宅ジャーナル ]
伝統系では下見板張(したみいたばり)に柿渋(かきしぶ)や煤(すす)をぬって耐久性・耐候性を高めて、退色(木材の変色)にも備えたわけですが、防火については屋根材に瓦を用いて無機質化することに頼っていました。近年では、液体ガラスの塗料も出ているようですが、外まわりの板に無機系の塗料を塗るという発想はどうなのでしょうか。

[ 守谷 ]
液体ガラスというのは、水ガラスのことを指しているのだろうか。原料が不明なので製品に関する言及はできないが、水ガラスというのは、ケイ酸カルシウムのことを指している。つまり無機系の材料だ。
無機系の材料を木材に使う際の注意点は、塗料か木材か、どちらかの性質を変えないと使えないということだ。
無機系のものはいくら粒子を細かくして、ミクロン単位、ナノ単位にしたとしても、粒子同士が結びついて固まってしまうから、木材には浸透しない。
水溶性で木材に浸透させるには、赤身ではなく、白太を使う方が、よく水分を吸うので良いとされている。一般的な不燃木材では、水溶性の不燃材料を杉の白太に吸い込ませる。
分かりやすい実験としては、杉の赤身、杉の白太、檜の赤身を、100℃で30分煮沸して漬けておくと、面白い結果が出る。
杉の赤身は細胞にフタがされている。これを細胞壁孔と呼ぶ。赤身だと水を吸い込まずに水の上に浮いているのだが、杉の白太と檜の赤身は、細胞にフタがなく、水を吸うので沈んでいく。沈むと比重が3くらいになる。
だから、以前(第6回)にも説明したが、檜(ひのき)の赤身は、杉の赤身よりも腐りやすいんだ。だから、檜の赤身を外まわりには使わないほうがいい。
一応誤解のないように補足すると、細胞壁孔とは、木材内部の水を吸い上げる機能を持つ導管の、次のそのまた次の非常に微細なナノレベルの話だ。
また、木材は収縮するので、無機で水溶性の材料、例えばホウ酸を溶かしたものを塗ると、湿気が入り込む。いわゆる白華現象が起きる。こうした木材の性質によって起きる欠点を防ぐため、逆に木材に熱などを加えて変質させ、収縮率を減らしてから塗るという方法もある。しかし、木材が変形するし、製造コストもかかってくるので割高となる。
前回(第15回)でも紹介したが、竹というのは表面がシリカ質で無機系のガラス質のような物質だ。ことわざでも言う通り、「木に竹を接ぐ」(=異質なものをつなぐこと、筋道が通らないこと)のが、なぜ駄目なのかというと、有機系と無機系の材料では性質が違うからなんだ。

樹脂化という選択肢

[ 月間住宅ジャーナル ]
製造コストの観点から言えば、屋外で木材を長持ちさせるための最も合理的な選択肢は、木材の表面を塗装することによって樹脂化する、つまり表層をプラスチック化するという選択肢になるのでしょうか。

[ 守谷 ]
樹脂化することは必ずしも安価な選択肢ではない。例えばアセチル化木材のように、木材をミクロレベルで樹脂化することで、腐朽に対して極めて強い木材にすることもできる。しかし、大変なコストがかかってくる。アセチル化木材というのは、木材の導管にプラスチックを詰め込むWPCの技術よりもさらに高度な技術になるから、簡単に購入することは難しくなる。だから、表面だけを樹脂化する塗装の方が、製造コストとして良いということになる。
実は、アセチル化よりもコストをかけずに、杉の赤身に1ミリくらい簡単に樹脂を浸透させる技術がある。これについては、まだ開発中なので詳細は言えないが、最初に述べたように表面の研磨の仕方を変えたりとか、建具で言えば小口の面の取り方を変えるだけでも大きく違ってくる。これについてはまた次の機会に紹介しよう。