木づかいのコツ 不燃木材への挑戦 4 – 『月刊住宅ジャーナル』2019年08月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2019年08月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal-1908d1 )。

新連載 直伝 木づかいのコツ 不燃木材への挑戦 4

第8回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 月刊住宅ジャーナル ]
今月号では、いよいよ不燃材の製造技術についての話となります。

[ 守谷 ]
今までの復習をすると、不燃材で多い製造方法は、白太(しらた)に薬剤を含浸させる技術であるわけだが、デメリットがある。守谷建具では、過去にこのような技術を考えてきた。

  • パラフィン乾燥の応用技術(2012年特許)
  • フリーズドライの原理の応用技術(97年日本木材学会発表)

しかし、これらの製造方法は、不燃材の製造に応用しようとするとデメリットがある。一番良い含浸方法は減圧と加圧を同時に行う方法だ。

  • 多孔質木材の製造方法・加熱加圧を同時に行う製造方法(2008年国際特許)

加熱・加圧の製造方法の概要については、以前、ジャーナルで紹介した通りだ(住宅ジャーナル2008年6月号参照)。この製造方法については、本当にこれで製造をしたい人に任せたいと思っている。
フリーズドライの原理については、今まで説明してこなかったから、ここで紹介する。フリーズドライの原理というのは、真空状態で氷を気化させることだ。凍ることで多孔質に水分を蒸発させる。これがフリーズドライになる。だからフリーズドライは天ぷらみたいに穴だらけになる。フリーズドライの昔ながらの例としては凍み豆腐(高野豆腐)がある。お湯をそそぐとカップラーメンのように具が元に戻る。
杉の白太がくさりやすい理由として、空気と水がいっぱい入りやすいということがある。生木だと体積の90%が水分と空気で、生木を製材した状態でも50%〜70%が水分だと思われる。杉の場合は、空気の割合が正確に測定すると、おそらく90%で、木材の細胞の割合が10%ほどになる。
多孔質にするには、体積の50%〜70%の水分を瞬時に帰化させるといい。それが天ぷら乾燥の技術で、守谷建具が開発した木材の加熱・減圧の多孔質加工の技術になる。50%の水を空気にすると約1300倍の体積に代わるので、勢いよく泡になって出てきて細胞をこわすわけだ。これが水蒸気爆発だ。
富士山は気圧が低いから80℃でも沸騰する。真空だと氷も気化するから、温度を130℃〜150℃くらいにして真空にする。真空にすれば130℃の温度だ。乾燥剤でも多少の水分が勢いよく気化する加熱・減圧の原理となる。
木材を130℃に加熱して、空気を膨張させてひっぱる。そうすると空気が0に近くなる。
だから、加熱してから、減圧を行う。減圧で引っ張って空気を抜き、加熱で膨張させて空気を膨らませる。これを同時に行うことで空気を抜くというやり方だ。
この原理としては論文で発表したことがあるから、詳細はそちらを読んでほしい*。
この発表のきっかけは、今から20年前に奈良の木材研究所にサンプルをもっていったことがきっかけなんだ。4寸角2mの木材に不燃材を含浸させて持っていったら、ライトバンからおろそうとしたら、不燃薬剤で重くて木が下ろせなかった。研究者も驚いて、後で学会で発表するからという話になって、うちの地元の埼玉の試験場で試験をしたんだ。
この製造法は、メリットとデメリットがある。
一番のメリットは細胞が破壊されることにより強度が増すことがある。普通に考えると強度が損なわれると思われるが、実際は強度が増す。木材がスポンジ状になっているので液体はしみこみやすくなる。
デメリットは水分を吸収しやすくなるので、改質木材以外には使用できないことだ。特に常時湿気の多い場所での使用には注意が必要だ。結果的には木材が腐敗しやすくなる。ばい菌が入りやすくなるわけだ。

不燃化のまとめ

[ 守谷 ]
最後に植物性の不燃化について、自分の実験と経験をまとめてみたので、参考にしてほしいと思う。
濃度としての一番の条件は、不燃化濃度10%以下が絶対条件だ。木材もそうだが、特に和紙・紙類などで濃度が10%以上になると商品価値が劣る。
製造方法としては、木材も紙類も同じと思っていいだろう。順番に挙げてみると、

  1. 物質を多孔質にすること。
  2. 物質を絶乾状態にすること。
  3. 真空に近い状態にすること。加熱を同時にするといい。
  4. 不粘液を50℃ぐらいに加熱し真空状態で器に注入する。
  5. 加圧する。できれば真空と加圧を同時にすれば良いが、技術的に困難である。
  6. 器から出した木材は低い温度での乾燥が良い。

特に注意する原理として、乾燥剤は、減圧・真空にすることにより、木材の表面温度が急激に下がり、常温の不燃液では結晶が起こり、目詰まりが始まる。和紙の実験では、不粘液の濃度5%で不燃状態で炭化する。4%では炭化はするし、試験体によっては炎も見られる。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
不燃材の製造の方は、これで終わりということになります。
読者の方からも多くの感想をいただきまして、新しいアイディアが一体どこから出てくるんだろうという声が多くありました。聞いている私にとっても、まるで、目の前のトトロの森(狭山丘陵)からこんこんとアイディアが湧いてくるようでした。
(次号につづく)


杉材の細胞壁孔の膜を破った状態

 

*第47回日本木材学会大会研究発表要旨集(1997)「加熱一減圧処理による木材の透過性改善」