『月刊住宅ジャーナル』2015年9月号に掲載されました。
「国指定重要無形文化財 江戸三大祭り – 佐原の大祭で見た木材の耐衝撃性」(原文(PDF))。以下に転載します。
守谷建具店による解説はこちら(山車の車輪(ハンマ)の製造工程)。
国指定重要無形文化財 江戸三大祭り
佐原の大祭で見た木材の耐衝撃性
[守谷建具店が挑む車輪作り]
関東三大祭りとして知られる佐原の大祭(さわらのたいさい)。毎年7月と10月に千葉県香取市で開催されるこの祭りは、埼玉県越市などと並んで「小江戸」と呼ばれた佐原の江戸文化の名残を今に伝えている。利根川対岸の潮来と同様、水郷の街として栄えた佐原では記録によると18世紀(享保年間)から山車祭りが開催されている。
山車は全体が高さ9m、山車だけで5m、人形で最長4m。重さは4トンを超えるという巨大な造り。25町それぞれが自慢の山車をもっていて、祭神などの人形や鯉をあしらった山車彫刻が見ものである。江戸の祭りに負けじと築き上げた利根川水運で栄えた佐原の絢爛豪華な山車祭りであり、国の重要無形民俗文化財に指定されている。
[進化する山車の技術]
こうした伝統色豊かな佐原の大祭の舞台裏では、より安全性を高めるための木工技術の進化も進んでいる。特に重要なのは地元で「ハンマ」と呼ぶ山車の車輪の製法である。この車輪は山車の下に鉄筋を通して留めるもので、昔から変わらない伝統の木製車輪であるが、素材や製法はより耐久性を高めるために変化してきた。
水源佐原山車会館に展示されている古いハンマを見ると、おそらく地松だろうか。松科の木材を十文字に接合してその間に8等分した同材料をつないで接着して木ねじで留めている。木材同士もバラけないように召し合わせて継いでいる。直径は1m。戦前はこの太さの地松が入手できたので筒切りにして使い、使わない時期は泥田に漬けて保管していたという。その後、松の大木は入手困難となり、ケヤキの丸太を用いたが、それもしだいに減って高値となり、近年ではケヤキの集成材を用いるようになった。ケヤキ(欅)は昔から神輿や和太鼓に用いられる広葉樹の材料で硬い材質が特徴である。
ところがケヤキの集成材でも駄目だという声がいくつかの町から出てきた。何と接着剤で集成した箇所がはがれてくるのだという。ハンマ(車輪)の寿命は20年から30年というが、数年で隅が削れて変形するので、磨ぎ直すうちに直径1mが80cmまで減って取り換えとなる。なぜこれほどハンマが痛むかというと、山車は単にまっすぐに進むのではない。道路の角になると町内の下座連30人が力を入れて山車を回す。特に「のの字廻し」といって左前の車輪を軸として筆で「の」の字を書くように山車を数回転させるのが見どころで、最大4トンの重みが一個の車輪にかかるのだから傷みがはげしい。そうした曳き廻しを年2回繰り返しているうちに、30年はおろか10年持たせるのも難しいので丁寧なメンテナンスが欠かせないのだ。
[集成材がはがれない車輪]
「絶対にはがれない車輪にしてほしい」というゼネコンからの依頼で、埼玉県所沢市の建具屋「守谷建具店」が引き受けることになった。本誌では、その耐久性に優れた車輪づくりの製作過程を迫った。
[1. 材料の選定]
材料は製作マニュアルである「木製車輪製作組立完成図案」で指定がある。車輪の表(ホイール部分)には、欅の天然木・無垢の板目材、込み栓には赤樫芯材を用いる。
車輪のコア材(芯材)には、欅芯材又は赤樫芯材以上の硬木(海外材でも可とする)。比重はホワイトオーク(強度7~0.75)以上の比重。守谷建具店では表面材には、伝統のケヤキの無垢板目材を採用。芯材についてはアッシュの集成材を用いることになった。アッシュは北米東部やヨーロッパで産出する木材で強度はハードメープルと同等。衝撃に強いことから、プロ野球のバットに用いられることで知られる。比重はヨーロピアンアッシュで0.70で指定の比重をクリア。
[2. 表面の研磨]
材料はケヤキとアッシュで硬いので少しずつといでいく。丸ノコと昇降機でとって、ルーターでとるためのけびきを設けた。込み栓は引き戸につり車を埋め込む道具を応用して埋め込む。ケヤキを集めて仮木どりをする。36°ずつ一回りの寸法。平に削って一ヶ月養生。多いと1ミリ狂いが出てくるので、まっすぐに削り直す。パネルソーでとってワイドサンダーでベルトを上げながら2時間かけて研磨した後にNCルーターで丸く抉る。研磨してピッタリさせると空気を出すので、重ね置きする際にふわっと置けるのが特徴。
[3. 接着剤の選定]
コニシ提供のポリウレタン系接着剤を両面につけているのがポイント。ポリウレタン系は真っ平でない場合に補う接着剤。レゾル系よりも火に弱いので日本では建築用で使わないが、欧米では主流。発砲するのが特徴で衝撃に強い。
[4. 鑿でぶち割る]
水に一か月漬けた試験体で耐衝撃性を実験。黄色いのはポリウレタンではったケヤキ。ノミを打ち込むと接着面にノミが食い込んで止まってしまった。ノミ6発後にようやくはがれた。一方で片面塗りはノミ一発ではがれてしまうほど衝撃に弱かった。寸法をはかると水につける前と比べて0.5ミリずれている。