木づかいのコツ 屋外での木材利用に注意 – 『月刊住宅ジャーナル』2020年04月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2020年04月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal-2004d1.pdf )。

新連載 直伝 木づかいのコツ 屋外での木材利用に注意

第14回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 守谷 ]
今月もジャーナルの読者のために、面白いものを紹介するよ。

[ 月間住宅ジャーナル ]
これは、道端などに落ちている木の棒でしょうか。

[ 守谷 ]
違うよ。30年屋外で放置した杉の四寸角の柱だ。うちの畑に転がしとたのを、ブラシで泥を落としたら、こんな風になった。

[ 月間住宅ジャーナル ]
まるで木材のミイラか、白骨死体のようですね。

[ 守谷 ]
30年経っても残っているのは、心材の赤身だけだ。辺材の白太は、腐ったり虫に食われたりして減失し、ついになくなってしまった。

[ 月間住宅ジャーナル ]
木造住宅は、従来型の不動産評価で30年で資産価値がゼロになると言われています。これまでの新築木造住宅の価値は屋外暴露の白太同然だったのかもしれません。

[ 守谷 ]
つまり、木材で本当に価値があるのは杉の赤身だということだ。実は、昨年リフォームした自宅では、屋外にたくさん木材をつかっているんだ。軒板、縁側、玄関ドアなどに使って、塗装の経年変化や木材の腐朽の度合いを調べているんだ。

[ 月間住宅ジャーナル ]
守谷建具の木工所の隣の自宅ですね。玄関、ベランダ、軒先に惜しげもなく銘木が使われています。
読者の皆さんにあらかじめ補足説明しておきますと、これはあくまでも実験的仕様として守谷さんが施主支給したものです。工務店さんの設計ミスでは全くありませんので、ご安心ください。

[ 守谷 ]
予想以上にひどかったのは軒天だ。ヒノキ合板の一類を使ったが、昨年の梅雨で表面にカビが生えてしまった。汚いとカミさんに言われて、自然塗料の塗装を塗り直したが、秋の長雨でまたカビが生えてきた。

[ 月間住宅ジャーナル ]
外装材は木目柄の窯業系サイディング。2階の軒天には一般的なケイカル板を用いています。1階軒天だけ、ヒノキ合板を実験的に用いています。
写真をよくみると、白太のカビがひどいようです。空気中の湿気が桧(ひのき)の白太に付着してしまったのでしょうか。ここでは1類ヒノキ合板を用いていますが、1枚板の場合はどうなのでしょうか。

[ 守谷 ]
1枚板なら少しの白太でも大丈夫だろうと思って、自然塗料を塗って使ったんだ。
ヒノキ合板というのは、最近になって盛んに製造されるようになった合板だ。表面がきれいだからついあらわしで使いたくなる。しかし、合板はロール剥きなので湿気を吸いやすくなってしまっているので、使い方には注意が必要だ。
カビが生えた原因には、昨年の長雨の影響もある。昨年は畑のホウレンソウがひどい不作で、台風の影響で多くが枯れてしまった。同じように軒天のヒノキ合板も記録的な長雨で予想以上に早くカビが生えてしまった。
最近の異常気象では、長年の経験に頼っているだけでは、木材利用の判断が難しくなってきた。これで良いと思っても、予想外のことが起きてくる。むしろ経験は疑ってかかった方がいい。
屋外で木材を使う時の注意点としては、とにかく信用できるのは、杉の赤身だけだということなんだ。白太も、塗料も接着剤も、時間がたてば本当に屋外で使えるのかどうか、あやしくなるんだ。


木づかいのコツ 熱割れのメカニズムとは – 『月刊住宅ジャーナル』2020年03月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2020年03月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal-2003d1.pdf )。

新連載 直伝 木づかいのコツ 熱割れのメカニズムとは

第13回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 月間住宅ジャーナル ]
守谷さん、そこの壁に立て掛けているガラスにひびが入っていますが、どうしたんですか。

[ 守谷 ]
冬の寒さでガラスが熱割れを起こしてしまったんだ。ガラスメーカーに聞いてみたら、アルゴンガス入では、初めてだそうだよ。

[ 月間住宅ジャーナル ]
くわしい経緯について教えてもらえますか。

[ 守谷 ]
8年前に、川越市の木造の注文住宅に木製のサッシを納品したんだ。それから数年経って、1月の最低気温、マイナス10℃位になった日あったんだが、御勝手(台所)で奥さんが朝の調理していたら、ビシッと音が鳴って、みてみたら、ガラスが複数の筋が入って割れてたんだ(写真右)。階段の中ほどにあるガラスだ。
こうなるとどこか悪いのかという話になってね。ガラス屋と自分と建築会社とガラスメーカーで相談して、原因について話し合ったんだ。そうしたら、次の年にまたガラスが割れたんだ。今度は階段の上の2階の窓ガラスだ。縦に一本筋が入っているガラス2枚がそうだ。また割れるんじゃないかと気がかりだが、今年は暖冬だから大丈夫だ。一年で一番寒い日に割れるんだよ。

[ 月間住宅ジャーナル ]
気象庁の最低気温の記録で調べてみましたところ、2018年の1月26日にさいたまで氷点下9.8℃を記録していまして、歴代1位の最低気温だそうです。
ところで、どんな家で、何が原因だったのですか。

[ 守谷 ]
建物の間取りとしては台所があって、ドアを一枚隔てて階段に直結している。その階段の中ほどに木製サッシが2窓、その上の階段上部の2階にも木製サッシが2窓入っている。
台所のドアはよく開いていて、台所で調理をした時の熱気が階段の上にたまりやすいという設計になっていたんだ。
ガラスが割れるということは、温度差が大きくなるせいで割れるわけだから、台所の熱気と外の寒気との温度差で割れたんじゃないかと思うんだよ。

[ 月間住宅ジャーナル ]
熱割れについては、ガラス製品の工業会である板ガラス協会さんに問い合わせてみました。ガラスが割れるメカニズムは単純に一つだけだそうです。ガラスの中央部が温まって膨張して、一方でガラスの端部が温まらないで冷えていると、温度差で端部に強い応力がかかる。つまりガラスがゆがんで反り曲がって端部から縦割れが発生するそうです。それとガラス屋さんの情報によると天窓で熱割れが起きることが多いそうです。

[ 守谷 ]
天窓で熱割れが多いとはしらなかったな。たしかに、熱割れというのは大きな窓では起きないんだ。たいてい小さい窓で起きるんだよ。

[ 月間住宅ジャーナル ]
ガラス全体に均質に一定の断熱性がある場合は熱割れは起きないそうです。例えば一箇所だけに断熱フィルムが貼ってあっる箇所と貼ってないところとの間に大きな温度差が起きると応力が発生して割れるそうです。また、ガラスの種類ですと、網入りガラスは熱割れが起きやすくて、強化ガラスは起きにくいそうです。

[ 守谷 ]
網入りガラスは、以前、房総海岸のホテルで端部にたくさんのひびが入っているのを見たことがあるから納得できる。強化ガラスは一長一短で、製法上、表面がデコボコするから、外がゆがんで見えるんだよ。
アルゴンガスは比重の重いガスで熱を通しにくいので、外気が冷たいときには、マイナス温度のエネルギーを蓄える力を持つ。つまり空気の100℃と熱湯の100℃の差のように、物質の比重の違いが原因で熱割れが発生しないのだろうか。

[ 月間住宅ジャーナル ]
アルゴンガス入のガラスの熱割れについては、この事故で初事例ということでしたので、今後の動向を注視する必要がありますね。それと最近では、台所を吹き抜けなどにして空気の循環を良くしたり2階の家族との連絡を取りやすくする省エネや見守りを意図したプランが増えている傾向にありますので、窓ガラスの熱割れの被害が今後増加しないか注意する必要があります。

[ 守谷 ]
修理のときには、アルゴンガスなしの普通の複層ガラスにした。それと内側の3mmガラスを外側にして、外側の4mmのガラスを内側にして、くるっと返していれておいたんだ。厚い4mmの方を内側にした方がいいからな。そうしたら、まだ熱割れは起きていないよ。おそらく型ガラスの表面が凹凸で表面積が多いためだろう。

とにかく最近では異常気象で過去最高気温に達したかと思えば、冬に過去最低気温になったりする。スーパー台風で雨や風も過去最高を記録したりするだろう。そうするとガラスや木も今までの経験では予想できなかったことが起きるようなってきたんだ。


クリックで画像拡大

化学物質過敏症対策接着剤

ご要望があれば化学物質過敏症のお客様へ、ダボ接合部の接着剤として餅米(もちごめ)を使用します。米糊(こめのり)ではなく食用の餅を使用します。

その他の接着剤の使用法についてはお問い合わせください。

膨張・収縮による力を逃がすドア・建具の特殊構造

木づかいのコツ あやとりの原理で強度アップ – 『月刊住宅ジャーナル』2019年12月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2019年12月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal-1912d1 )。

新連載 直伝 木づかいのコツ あやとりの原理で強度アップ

第11回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 月間住宅ジャーナル ]
守谷建具の木工建具では、桧材の木表と木表を張り合わせてて、ドアの表面にも木裏を使うそうですが、どうしてなのでしょうか。

[ 守谷 ]
木表と木表同士を組み合わせるということは、伝統的な木造建築はもちろん、橋梁や超高層タワーの技術にも相通じるところがあるので一つ一つ説明しよう。
最近では利用が少なくなっているが、根曲がりの松を天井裏でみたことはあるだろうか。例えば農家の納屋の天井なんかでよく見かけるむくれた梁(はり)があるだろう。

[ 月間住宅ジャーナル ]
古民家などでたまに見かけます。地松(じまつ)の梁ですね。

[ 守谷 ]
その梁は、上向きに曲がっているか、それとも下向きに曲がっているか?よく注意して見てみると上向きに曲がっていて屋根を支えているんだ。もし、これを逆の下向きにしたら、建物の構造は弱くなってしまう。だから、昔の大工は曲がっている方を上向きにしてつけたんだ(図参照)。
これはダムの構造と同じだ。川の水をせきとめるためにダムは上向きに反っている。
むくり木の反発する力を梁や床組に利用すると強度に優れた木組みを作ることができる。これは無垢材を使った無垢建具でも同じことだ。反りがでる木を2枚逆向きに組み合わせて1本の框(かまち)を造れば、框の反りがなくなる。同じことは、橋でも言える。
吊り橋は、ワイヤーを支柱で留める構造が一般的だ。しかし、瀬戸大橋のような超大型の吊り橋になると、ワイヤーを支柱で留めると、風の揺れに支柱がワイヤーで引っ張られる。そこで瀬戸大橋では、支柱をつらぬいてワイヤーを通してその上で留めるようにした。こうすると風で揺れてもプラスマイナスゼロで、引っ張る力がゼロになる。引く力が押す力に変換されるため強度が増して支柱の負担が減るんだ。
これを守谷建具では「あやとりの原理」と呼んでいる。例えば一本の支柱に穴を通して、反対側に引っ張ると、引っ張られたものが反対側に動くだろう。
こうした反発の力を反対にそる力に変換する構造体が東京スカイツリーだ。あの構造体もねじれていて、スパイラルで力を変換しているんだ。
最新の建築物もそうだが、堂宮建築でも同じことが言えるそうだ。五重塔のような建物では、ほぞを穴に入れる時は、低層ではあえてゆるめに入れておくと、高層に積み上がるに従って重みでしまってくる。塔が風に揺れると木がねじれながら乾燥するのでしだいに締まってくるんだ。昔は生木を使っていたから、今よりも自然の木の反りやねじれの力をうまく利用しようとしていたんだ。
こうしたあやとりの原理の力学を応用して開発したのが、守谷建具の耐震パネルだ。一つは垂直・水平の杉の格子に鉄筋を斜めに入れているタイプで、これは住宅よりももっと耐力の必要なビルなどの建築物向けだ。もう一つは鉄筋を使わずに杉の格子を斜めに使ったものだ。住宅のパネルにも応用することができる。

[ 月間住宅ジャーナル ]
漆喰の下地に入れる小舞(こまい)を巨大化して、筋交いのように斜めの角度にしたようなパネルですね。一定の耐力が期待できます。

[ 守谷 ]
あやとりの原理は、フラッシュドアの芯材にも応用することができる。一般的なフラッシュドアの芯は横に入れるが、守谷建具では反っている芯桟を3寸(約10cm)間隔で縦に入れてホチキスで留めて、ベニアを張って作っている。こうすると、それぞれの芯材の反りが互いに反発して引っ張る力をゼロにするので、強度に優れたドアを作ることができる。

[ 月間住宅ジャーナル ]
最近は小径木からとった木材が多く、芯桟も反りやすいので、反りの反発を利用することで強度に優れたドアができますね。

木づかいのコツ 木工機械の独自開発術 – 『月刊住宅ジャーナル』2019年10月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2019年10月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal-1910d1 )。

新連載 直伝 木づかいのコツ 木工機械の独自開発術

第10回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 月刊住宅ジャーナル ]j
今月号では、守谷建具の木工機械に注目してみたいと思います。どのような機械があるんですか。

[ 守谷 ]

  • 守谷建具では、主に、これだけの木工機械がある。
  • NCルーター (5軸/シンクス製)
  • ダボ堀り専用機 (アイキューワン製)
  • ワイドサンダー (Micro製/イタリア)
  • 直角二面かんな
  • 角のみ盤
  • みぞ突き機
  • ホットメルト式エッジパンダー
  • 集成材機(最長4mまで框の集成が可能)
  • 8軸モルダー(飯田工業製)
  • プレス機
  • 自動かんな

これらの木工機械のうち、最近使わなくなったのは、8軸モルダーとエッジパンダーだ。10年前にフラッシュドアから無垢建具に主力製品を変えたから、今ではフラッシュドアを作ることがなくなって、縁貼り機(ふちはりき)がいらなくなった。
木工機械というのはちょっとした条件の違いですぐに気難しくなる。輸入機械なんかは特にそうで、このイタリア製のワイドサンダーもそうだ。イタリアは日本よりも気候が温暖だから勝手が違うそうだが、冬になると毎年ベルトが外れてしょうがなかった。ところが、ガムテープをベルトの内側にはったら、ピタリと直った。機械メーカーも色々試したが、原因不明ということだったから、自分で色々試してみて調整しないと、うまく動いてくれないんだ。
一番高額な機械は、NCルーターだ。これは今から30年前に導入したものだ。当時の新鋼工業(現在のシンクス)の話によると、建具屋の建付加工用途としては国内第一号機で、電気工事、刃物、他の部品含めて約4000万円だったから、他の木工機械と比べても大体10倍近い金額がするわけだ。
一般的な木工屋と違うのは、うちは木工機械の位置をしょっちゅう変えて、作業効率の一番いい位置にしているんだ。ただし、このNCルーターは30年位置を変えていない。加工精度を安定させるために、住宅のようなコンクリートの基礎を打設しているから他の位置には変えられないんだ。
最近は、うちのせがれが「守谷インテリア木工所」という屋号にしているんだが、自分の名刺には「NC工房守谷建具」って名称をいれているんだ。だからNCルーターは、今でもうちの主力の木工機械だ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
NCルーターやダボ堀り専用機は、守谷建具のオリジナル設計ですね。今月号ではオリジナル機械の開発について詳しく教えてもらえますか。

[ 守谷 ]
今、見積もりをとって開発中のマシンもあるし、共同事業者を見つけて広めていきたい機械もあるから、色々紹介するよ。

NCマシンのシステムを独自に開発

[ 月刊住宅ジャーナル ]
一番最初の開発から順を追って教えて下さい。

[ 守谷 ]
最初の頃は、特許も出していなかったから、正式な開発者とは呼べるかどうかは分からないが、木工機械の業界に影響を与えたものに、NCルーターのテーブルの原点の位置がある。
30年前にNCルーターを導入したときは、X軸、Y軸、Z軸の3つの軸の原点の位置がテーブルの中央にあったんだよ。中央にあると、プログラムが大変でね。やりにくくてしょうがないから、機械の勉強の時に、俺が原点をテーブルの左角にすることで、位置決め作業が3分の1に軽減できた。新鋼工業の技術の人が来たときに「あれ動かない」なんて言ったから、「俺が変更した」って言ったんだよ。
それがきっかけで、原点の位置が中央から角に代わって、数年後にはどこのメーカーもNCの原点の位置を変えるようになったんだ。この話は、今から10年ほど前に、業界の裏話で教えてもらったんだよ。
NCルーターは、主軸のパッキンが破損したので、テーブルを外してあるが、この定規は0.1mm~4.0mmを調整するためにオリジナルで制作して取り付けたものだ。それとテーパーがんなも取り付けた。これはNCルーターでドアの大手を入り勝手に削るためのものだ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
こんな特殊なNCルーターは今まで見たことがありません。

[ 守谷 ]
もともと、この機械を導入したきっかけは、建具の建込みで、鉋(かんな)と鋸(のこぎり)を使っていて腱鞘炎(けんしょうえん)になったことがきっかけなんだ。当時はフラッシュドアだったんだけど、とにかく建具の枠材がまがっていて調整が大変だったんだ。腱鞘炎で鉋がもてないから、建付け前に当時最新のロボットの機械でドア枠の曲がりを正確に合わせようと思い導入したんだ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
どうやってゆがみを正確に測るのですか。

[ 守谷 ]
こんな風にプログラムを組んだんだ。
(紙で図を描く)
NECの初期のコンピューターの9801に、自由曲線を描くシステムをつくって、このカーブを区切って1,2,3の数値に置き換えていく。建具が0.3ミリ曲がっていれば、区切り部分の直角三角形を計算して、削り出す寸法を算出するサブプログラムを作ったんだ。この入り勝手(いりかって)を削るためにテーパーかんなもつくった。
つまり、現場で建具職人が経験と勘で決める1厘(りん)とかの建て込みの微調整をロボット(=NC)が数値化して測定して、削り出すという仕組みだ。これで建込みの作業効率がものすごく良くなった。60坪の家で建具が200本あった家があったが、NCを導入したおかげで2人で1日で終わらせることができるようになった。
こういうNC加工の技術は、今の建具職人が不足している時代には必要なことだと思うよ。
ただし、建具屋にとってはこの技術は難しくて、まともに使いこなせる業者が、今までうちしかいなかった。使えないと結局クレームにつながるから普及しなかったんだ。
うちの所沢でも以前は20軒も建具屋があったんだが、材料から木製建具を作っているのは今ではうちだけになってしまった。だから、高度な機械をもっと簡単に使えるノウハウが必要なんだろうな。

人工知能付きミゾ加工機の開発に挑戦

[ 月刊住宅ジャーナル ]
現在も新しい木工機械を開発しているんですか。

[ 守谷 ]
今、メーカーに見積を出してもらった所だ。ミゾ加工機の人工知能化だ。これはうちのせがれが詳しいから呼んでくる。
これからの木工機械の開発で必要なことは、安全対策だ。木工屋では指のない職人が多いだろ。それはかんな盤なんかで指を滑らせて刎ねてしまうからだ。
今の木工機械の最新技術というのは、大型で高額の機械に集中している。大型の機械が国の補助金の給付を受けて導入が進んでいるが、小型の木工機械はすっかり進化が止まったものと思われている。
もちろん今の木工機械は消費者保護のために昔のものよりも安全対策はついているよ。でもこれからは高齢者や若手の入植者のためにもっと高度な安全対策をほどこした方がいいと思うんだ。木工屋は指のないのが当たり前なんて思っていちゃだめなんだよ。
[ 知 ]
守谷知(とも)です。前職では、精密機械の故障検査用のスキャナーの開発をしていました。(注1)

[ 守谷 ]
今、木工機械のメンテナンスは、知(とも)にまかせている。音を聞きいただけで機械の故障箇所が分かるから助かってるんだ。

[ 知 ]
音で分かったっていうのは、たぶんNCの給気バルブ1ヶ所切れてた時のことだね。あれは音を聞けば分かります。
木工機械では、どこが壊れているかということを見つけることも大切で、見当違いの修理相談すると、修理工具を間違えてもってくることがあるんですよ。

[ 守谷 ]
守谷建具の作業で一番あぶないのは、手押し鉋(がんな)でやる作業だ。木工メーカー、安全対策のためにかんな刃にカバーを付けることが義務付けられているが、実際の現場では大きな部材を加工するので、作業のじゃまになるからとってしまうことが多いんだ。
だから、手押しかんなの刃の上にはいつも合板の3ミリを両面テープで固定して、かんな刃が手でふれないようにしている。
もう一つのあぶない所は、みぞをついている時に木が跳ね飛ばされてしまうことなんだよ。木が跳ね飛ばされたり、勢い余って自分がカッターの刃に突っ込んでしまったりする。
そこで開発したいのは、ミゾつき機の改良版だ。例えて言うとジャンピングソーっていう、カットソーのようなものがあるんだが、ジャンピングソーのように半自動化するための仕組みだ。
開発のポイントは、二つある。一つは手押しかんなのローラーを人間の手のような形にして木材をよりしっかり抑えることができるようにしたことだ。
もう一つは、スキャニングのカメラをつけてみぞ突きの位置を読み取れるようにすることだ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
読み取り機はどうやって開発するんですか。

[ 知 ]
読み取り機能は、既製品がいくつかあるのでそれを利用します。最初は音声の読み取り機能を考えていたんだけど、木工所の作業場は騒音がひどくて聞き取ることができない。次に線を読み取る装置を検討しました。でも建具の部材には書き込みが結構多いから、モノクロを読み込むだけじゃ判別できない。そこで青や赤の線だけを読み取ることができる装置をつけるようにしてNCマシンのシステムを独自開発します。
問題は、このカメラの取り付け位置です。材料を振り回してぶつけてしまわないかとか、機械の振動で読み取り精度が落ちないかとか、木くずがついたカメラやレンズふいて傷がつかないか、やっぱり手動でやった方が早いのではないかとか、色々な課題があるので、それらを一つ一つ解決している所です。

注1 本人ではなく、守谷和夫へのインタビューに基づいた記者氏の解釈による紹介文です。この紹介文は間違ってはいませんが、実態とは離れています。