木づかいのコツ CLTに異議あり – 『月刊住宅ジャーナル』2018年10月号掲載 – CLTは内部で膨張・収縮を繰り返し自壊する

CLT(杉を交互に重ねて接着した集成材)は湿度の影響を受け、CLT内部の構造の中で膨張・収縮を繰り返し自壊します。木材は方向により膨張・収縮の大きさが違うためです。

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2018年10月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal-1810d1.pdf )。

新連載 直伝 木づかいのコツ CLTに異議あり

第1回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

連載趣旨
循環型資源である木材の理由にあたっては現場で培った経験と科学的見地に基づいた知識が欠かせない。職人の減少に歯止めがかからない状況の中、本誌では、木材加工において豊富な経験と知見を持ち独自の理論を展開している守谷建具の守谷和夫代表に、木の使い方を主なテーマに洗いざらし質問する新連載をスタートする。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
近年は国の推進もあって、木材の利用をより意識的に進めようとする動きが活性化しています。守谷さんはどのように見ていますか。

[ 守谷 ]
最近では、俺達の世代が持っている木材の知識や経験じゃ、理解できないものが出てきたな。特に、CLTには驚いているよ。CLTってのは、要は杉を交互に重ねて接着した幅はぎ材(*)のことだろ。あれで、問題を起こす業者もかなりいると思うよ。
* 集成材の意味。建具業者は自社で接着して作る。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
問題といいますと…

[ 守谷 ]
建具の業界でいう『パンク』と呼んでいる現象が起きるんだ。つまり木が反り返ったり、膨張や収縮を起こして壊れてしまうんだ。日本の板目の杉は、乾燥と湿気に対してとても敏感なんだ。建具屋では、タモ・杉・桧(ひのき)の集成材をよく仕入れるけど、既製品を仕入れてから4〜5日しておくと、表面が木の収縮で凸凹(でこぼこ)してくるからワイドサンダーで研磨し直すんだ。だいたい8分(24mm厚)から1寸(30mm厚)のは出るよ。集成材は7〜8%まで乾燥させているそうだし、巾(はば)剥ぎ方向が長い上に、CLTだと縦方向・横方向に交互に張るから相当ずれるだろう。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
守谷さんは、新しい材料を建具に用いる際には、すべて自社で試験体を作って実験してから、使うそうですが、CLTのような交互に重ね合わせる幅はぎ材についても自社で実験されたのですか?

[ 守谷 ]
もちろんやってみたよ。和室の鴨居(かもい)によく使う120mm×厚み45mmの杉の材料を使って試験体を作ってみた。含水率を約2%に落とした4寸の2.2尺(670mm)の板を使って、削って厚み40mmにして、16枚積み重ねて、接着剤は使わずに、1枚につきダボ(直径10mm、長さ50mm)を2本ずつ入れて、両側に64本のダボを入れた。これで一年間放置しておりたら、ダボがみんな折れてしまった。
なぜそうなるかというと、杉の板目は湿気と乾燥に敏感だからだ。木材は横方向・長さ方向は収縮がないが、幅方向はすごいあるから、幅方向に引っ張られる。縦方向は伸びないけど、横方向は伸びる。ぬれると幅方向に伸びて、雨がふると外部のパネルの継ぎ目は毛細管現象を起こして、横はぎの方に水を吸い込んでのびる。例えていうと自動車がカーブで曲がる時の内輪と外輪の関係と同じだ。同方向に接着すると、同方向の板に関しては幅がほとんど変わらない。つまり、接着方向を同じ方向にはるとお互いの木材がついていくけど、縦横交互にはると互いの木材がついていかないわけだ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
それだけ木が変形すると、接着剤の選択も難しいですね。

[ 守谷 ]
木材の変化についていく接着剤がいい。酢酸ビニール系の接着剤は、湿気があると収縮性があるから木材の変化についていく。うちじゃ、酢酸ビニール系の耐水性の強いボンドだけを使ってる。普通の建具屋が使うボンドの3倍くらい価格がするけど、水に漬けた後に金槌で叩いても剥離しない位強力な接着剤だ。接着面が柔らかいというのがいいんだよ。木の変形追従できるんだ。硬化してしまうタイプの接着剤だと、木の変形に追従できないから、時間がたって伸縮が繰り返されることで接着剤に疲労がおきるんだよ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
守谷さんは、建具づくりにも木の変化に追従できる接着剤を使っているんですか。

[ 守谷 ]
この間の田園調布の玄関ドアにも使ったよ(*)。これは難しいドアだった。加工よりも理論的にも難しかった。なぜかって。そりゃ、普通にこういう中桟なしの一枚板のドアを作ったら、ドアが垂れるに決まっているだろ。蝶番をいくら強いものにしたってドアの重さで垂れ下がってしまうから使えなくなるんだ。
* 2018年9月号P42記事参照

[ 月刊住宅ジャーナル ]
お寺や立派な門構えの家では一枚板の唐戸の開け閉めができなくなって、勝手口から出入りしているのをたまに見かけますが、ドアの垂れは怖いですね。

[ 守谷 ]
垂れをどうやって防ぐかが大事なんだ。まず、ドアの真ん中の板は木の割れを防ぐために、5mmの耐水合板で両面から秋田杉を耐水性の酢酸ビニール系の接着剤ではって、去年の暮から倉庫の2階に4ヶ月ほどすっぽっといてからカットした。4ヶ月放置したのは、はじめに内側の耐水合板と外側の杉の収縮がどれくらい違うか調べたかったからで、やってみたらズレがなかったから使うことにした。
接着するときに接着面の両面に接着剤を塗るか、それとも片面だけに塗るかということも難しいんだけど、ここでは合板に2回塗る。板に塗ると板が伸びてしまうので板には塗らないでプレスする。
それからホンデュランスマホガニーを両面から継いで溝をついてぴったり遊びなしで入れて、ねじで留めて完璧な一枚のパネルにしてから、上桟・下桟のダボをギリギリにしていれた。上桟・下桟の角には養生テープをはってから1ミリ位の遊びでシリコンのコーキングを注入した。枠やパネルが伸び縮みして動いてもいいように、膨張分の遊びが必要になる。それをシリコンのコーキングが収縮分の遊びをつくってくれるので、木が収縮して動いたときにシリコンも収縮するようになる。そこまで木の動きを読んでから現場に納品したというわけだ。
ここでの耐水合板のパネルは木の割れを防ぐ筋交いの役割を果たしていて、木の収縮分をシリコンで受けているという構造だ。

無垢材にこだわった平屋建70坪/田園調布の数寄屋風住宅の建築現場/『月刊住宅ジャーナル』2018年9月号掲載 ワイツー設計株式会社:設計監理

守谷建具店が建具を納品した案件が月刊住宅ジャーナルで紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら(PDF)。

無垢材にこだわった木の家大好き趣味人の家
田園調布の数寄屋風住宅の建築現場
平屋建70坪/茶室つき/使用木材80m^3

東京の高級住宅地として知られる田園調布において、平屋70坪の和風住宅の建設工事が進められている。洋風の家が多い田園調布の家並みの中では珍しい和風住宅で、近隣で評判となっている。設計を担当したワイツー設計の小俣氏に案内してもらった

[設計の特徴]
施主は現役の実業家で、木をたくさん使った家が大好き。いくつかの家を持っており、今回は瓦屋根の和風住宅で無垢の木にこだわろうと思い、以前、紀州桧で作った住宅の雑誌記事を見てワイツー設計に依頼。家の構成としては、3人家族を想定して設計。お茶会など多目的に使える間取りとし、LDK(オープンキッチン型)+多目的和室(食事・茶室・お客様用寝室)+個室+書斎+予備室+ビルトインガレージ その他各部屋収納としている。茶室設計に関しては、表千家流茶道で長年学んできた経験を活かし、茶事にも対応できる露地計画を含めた設計とした。建物は、道路に接する南側を雁行させ、化粧軒裏部屋を磨丸太の独立柱で支えた造りとし、和風住宅に欠かせない庭との繋がりに重点を置いて建物と外溝をトータルでデザインした。周りの近隣住宅との調和も視野に入れた設計としており、例えば 家の顔となる玄関周りは、アプローチを600角タイルのモダンな色違い市松柄配置とし、玄関を和風でありながら観音開き扉にするなど近隣に溶け込みやすいデザインとした。内部においては、パブリックスペース(玄関ホール・和室・LDK)は 化粧柱を生かせる真壁造りとし、その他は大壁造りで、和風モダンな設えとした。

[田園調布の協定]
この住宅は、不動産価値と木材利用という二つの側面から際立った特徴を持っている。敷地面積255坪、東西に長い南東の角地という和風住宅の設計に適した立地である。この敷地には、「日本資本主義の父」として知られ、大正年間後半に日本ではじめて住宅と庭園の街づくり”田園都市構想”を提唱した渋沢栄一(1840~1931年/田園調布の創設者)の邸宅があった。その後は2棟の住宅が建ち、近年は大手企業が遊休地として保有していた。
住宅の建設にあたっては、田園調布環境委員会と協議し、合意を得た計画を区役所に提出した。田園調布には独自の規定がある。例えば、敷地境界線から敷地内に環境緑地として幅員1m以上の植栽ゾーンを設けなければならない。塀を設ける場合は、境界線の1m以上内側に設置する。塀は生垣が推奨されているが、フェンスや柵の場合は高さ1.5m以下とし、石材・コンクリートの場合は高さ1.2m以下とする。駐車スペースにシャッターを付けれる場合は、シャッター面は見通せる材質及び形態とする。隣接地に配慮して、北側の開口部は隣家の南側にあたることから、不透明性のガラスなどを採用しなければならない。こうした独自の規定を守りながら建設が行われた。
工期は約8ヶ月。昨年10月に地鎮祭を執り行ったが、台風の影響で月の3日ほどしか稼働できず、11月から本格的に工事を開始し、2018年6月に建物が完成。造園は今年9月頃から工事開始予定。

[使用木材は約80立米]
使用木材は、構造材、造作材、建具材を合わせると約80立米(m^3)。平均的な戸建て木造住宅での木材使用量は、約20立米未満と言われているので、約4棟分超の木材が用いられている。
構造材は全て無垢材とし、柱には紀伊半島材の桧(JAS構造材)120角を使用。主に丸宇木材(東京都江東区亀戸)で仕入れた。玄関ホール、和室、LDKの4寸角化粧柱、7寸(212mm角)の大黒柱は吉田ヒノキ。窓の連格子や雨のかかる箇所にもヒノキ材を用いた。軒廻りで見える無垢の桁材は米松平角材を用いた。
床材は無垢フローリングで、広幅(150mm)でゆかだんぼうにもたいおうすることがじょうけんであったため、和風・洋風どちらにも合わせやすいメープルの挽き板(3mm厚)を用いた。玄関ホールから各居室までは沓摺(くつずり)を設けず、20m近く通し張りのため、無垢材の色を選り分けてからの床張りとなった。
建具・無垢の家具・銘木類は、守谷建具(埼玉県所沢市)で作成。一般的に木製建具は、合板(シナベニアなど)、輸入木材(スプルース等)の枠材、化粧シート剤(メラミン樹脂等)を接合・接着して製作されることが多いが、守谷建具は、独自技術で4年ほどかけて養生した杉や檜などの無垢材の建具に特色があり、生産性に優れた機械設備を駆使して製造。ドアの面材には秋田杉の挽き板、下駄箱などの造作材には山武杉(さんぶすぎ)(千葉産)の銘木を用いており、長年の風雨で形成された木目を意匠として見せている。ドアの枠材・框材・木製サッシには国産ヒノキ、銘木としては、玄関ドアに40年前に仕入れたホンデュラスマホガニー、リビングの収納に白地のラオスヒノキ、床の間の地板には、名古屋の廃業した銘木店の倉庫から出てきたという樹齢600年ほどの4m1枚板の栂(とが)サワラ(日本栂(つが)によく似た樹種)を用いるなど、現在では入手が難しい樹種も用いられた。

[軒先と茶室の特色]
軒先を見ると、主屋根は、いぶし銀の瓦葺き、下屋根はいぶし金の鋼版葺き、垂木の鼻が見える意匠としている。軒で小口を見せようとすると、雨樋(あまどい)を用いずに、軒先からそのまま雨を落とすことになる。これは寺院や京都の庭園などの屋根で見られるやり方で、屋根周りが数寄屋風のすっきりとした意匠に仕上がっている。下屋根軒下には、伊勢五郎太(いせごろうた)石を雨落ち石に敷いて雨水を落としている。庭の化粧砂利も京都のさび石を用いて、建物との色の調和をとっている。
東側に向いた和室は茶室としても利用される。茶室の露地・庭園は秋からの造園予定で、立ち蹲(つくばい)を和室廊下の濡縁(ぬれえん)先に置き、景色を作る計画だ。本誌記者の見学時(6月中旬)には、すでに飛び石が敷かれていた。茶室は8帖の広間で、LDKとの境にある引込型の戸襖を閉じれば独立した空間になる。天井には霞雲(かすみぐも)を現した照明が塗天井に埋め込まれ、釣釜(つりがま)用の蛭釘(ひるくぎ)が打たれている。床の間は垂れ壁で富士山の袴越(はかまごし)の稜線を現し、違い棚と地窓障子横桟(じまどしょうぎよこざん)で霞雲を現した富士山型霞床(かすみどこ)、また、床の向かい側壁面に軸釘・中釘を設けて壁床に見立てることで霞床の機能面を補う形とした。
茶室の造作工事には、伝統的な大工の技法が駆使された。外壁のリシンかき落とし作業では、約10名の左官職人が集まってかき落としを行うなど、伝統的な技能の維持・継承という面においても特色があり、田園調布においても、近年では珍しい普請となった。

DATA
所在地 東京都大田区田園調布
敷地面積 845.30m^2 (255坪)
建物面積 256.18m^2 (77.49坪)
延床面積 223.66m^2 (67.65坪)
敷地条件 第1種低層住宅専用地域
大田区景観計画 大田区みどりの条例
景観法 第2種風致地区
田園調布地区計画 田園調布会 田園調布憲章
建物構造 在来軸組工法
建物規模 平屋建
設計監理 ワイツー設計
構造設計 SC設計
施工 本間建設

正面玄関 袖壁円窓越しに力竹・晒煤竹の連格子が見える
( 写真提供 松井一真 )

正面玄関のドアの面材は秋田杉とホンデュラスマホガニーを組み合わせた ドア枠の下部には腐食防止の鋼版
( 写真提供 松井一真 )

茶室は8帖の広間 床の間は垂れ壁や霞棚で雲間の富士山をあらわしている

橡の銘木の上がり框

壁床 中釘にかけた花入れ

金箔を散らした漆喰
( 写真提供 松井一真 )

水屋
( 写真提供 松井一真 )

茶室前の飛び石・延べ段

リビングの引込障子とカウンター飾棚 収納(ラオス桧)
( 写真提供 松井一真 )

玄関ホール兼寄付 待合床が控えている
障子を開けると露地の景色を楽しめる
( 写真提供 松井一真 )

リビングから玄関ホールを見る
( 写真提供 松井一真 )

待合床吊棚
( 写真提供 松井一真 )

リビング収納(左から地窓を組み込んだ桧飾棚 ラオス桧収納井桁調桧飾棚)
( 写真提供 松井一真 )

主寝室 棚・カウンターは杉無垢材 収納扉は桧無垢材
カーテン類もトータルでコーディネートした
( 写真提供 松井一真 )

子供部屋 棚・机は杉無垢材 デスクボードはコルク板を使用
入口扉は桧羽目板風框戸
( 写真提供 松井一真 )

建物西側から見た外観
( 写真提供 松井一真 )

化粧軒裏屋根を磨丸太の独立柱で支えている
( 写真提供 松井一真 )

書斎の引き出しの左右対処の面材は一枚板の秋田杉

廊下 居室入口のニッチ棚
( 写真提供 松井一真 )

医療用の木製車椅子を試作 ドイツの医療機器展示会MEDICAに出展 『月刊住宅ジャーナル』2015年12月号掲載

『月刊住宅ジャーナル』2015年12月号に掲載されました。
以下に転載します。原文はこちら(PDF)。
守谷建具店による解説はこちら(MRI用木製車いす試作品完成)。

医療用の木製車椅子を試作
ドイツの医療機器展示会MEDICAに出展 守谷建具店(埼玉県)

建具や家具といった住宅や建築物のインテリアを製造している木工業においても、今後は高齢化社会に向けて福祉分野への進出が求められている。
守谷建具店(埼玉県所沢市)では、このたび、ヒノキ製の合板を用いた医療用の車椅子の試作に成功。報道機関に公開された。
この車椅子の車輪と基材は、12mmのヒノキ合板を3枚に重ねて真っ平に研磨して34mmの厚みに加工している。重量は約20キロほど。150キロの重さにまで耐えられるように設計されている。手すり部分にブレーキがついている。また業界で”パッチン”と呼ばれている収納箱などに用いられている金具を用いて半分に折りたたむことができる。

[医療機器向けに試作]
この車椅子の用途は、医療機器用である。強い磁性を用いて特殊な検査を行う医療機器(MRIなど)を導入している病院施設では、機器の故障を避けるために磁性を持っ金属を検査室に近づけることを禁じている。患者には身につけている金属を全て外してもらった上で検査している。ただし、車椅子を使用している被験者の場合、車椅子の金属が機器の磁性に反応するので、これまで検査室では車椅子を使用することができなかった。そのため医療機器内部の高性能な磁力が反応しない車椅子が求められていた。
こうした特殊な用途のため、製造時には全ての金具で磁性の数値検査を行い、問題がないことを確認してから出荷する。また、車軸は金属性のべアリングの代わりに樹脂性の軸を3Dで設計。耐久性を高めるために、ホイール部分だけが回転して軸が磨耗しないように設計した。

[世界中の医療現場が注目]
この車椅子は11月にドイツで開催される医療関連機器の世界最大規模の展示会MEDICAで参考展示を行う。また木材加工の新しい可能性を示す製品として、11月11日~14日にかけて開催された日本木工機械展において参考出展される
ドイツでの展示に備えて、特に入念にチェックが行われたのは耐久性である。西欧人、特に北欧の場合、骨太で背丈の高い体型が多く、体重が100キロを超える人は珍しくない。車椅子における座席部分を100キロ超の耐荷重とすることは技術的に難しいことではないが、問題は車椅子の前部下についている足置きの箇所の耐久性である。このペダル大の大きさの部材に体重をかけて乗り降りするたびに100キロ超の荷重かかるので、ここの部分を磁性を持たない木材で仕上げることは難しい。そこで、耐久性の高い木材と強い磁力でも反応しない特殊ステンレスの金物を組み合わせて、試作品の実験を繰り返して耐久性に優れた型を作り出した。
木材加工に関しては、ヒノキ合板の小口加工のために新しい刃を新調した。一般的な平刃のスパイラルでは刃が小口に通らないので、斜めにギザギザがついていて小口加工に適したスパイラルを採用している。
こうした医療機器を病院に卸している商社によると、磁性を持たない木製の車椅子は3年ほどかけて試作が行われてきた。今回の共同試作において全てのパーツで耐久性・品質性・安全性・生産性における課題をクリアしたことで、医療用機器としての水準を満たす目処が立ったという。守谷建具店では、木工産業の新規需要の拡大を目指して、今後は一般的に用いられる木製車椅子の試作を考えている。

月間住宅ジャーナル
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国指定重要無形文化財 江戸三大祭り – 佐原の大祭で見た木材の耐衝撃性『月刊住宅ジャーナル』2015年9月号掲載

『月刊住宅ジャーナル』2015年9月号に掲載されました。
「国指定重要無形文化財 江戸三大祭り – 佐原の大祭で見た木材の耐衝撃性」(原文(PDF))。以下に転載します。
守谷建具店による解説はこちら(山車の車輪(ハンマ)の製造工程)。

国指定重要無形文化財 江戸三大祭り
佐原の大祭で見た木材の耐衝撃性

[守谷建具店が挑む車輪作り]
関東三大祭りとして知られる佐原の大祭(さわらのたいさい)。毎年7月と10月に千葉県香取市で開催されるこの祭りは、埼玉県越市などと並んで「小江戸」と呼ばれた佐原の江戸文化の名残を今に伝えている。利根川対岸の潮来と同様、水郷の街として栄えた佐原では記録によると18世紀(享保年間)から山車祭りが開催されている。
山車は全体が高さ9m、山車だけで5m、人形で最長4m。重さは4トンを超えるという巨大な造り。25町それぞれが自慢の山車をもっていて、祭神などの人形や鯉をあしらった山車彫刻が見ものである。江戸の祭りに負けじと築き上げた利根川水運で栄えた佐原の絢爛豪華な山車祭りであり、国の重要無形民俗文化財に指定されている。

[進化する山車の技術]
こうした伝統色豊かな佐原の大祭の舞台裏では、より安全性を高めるための木工技術の進化も進んでいる。特に重要なのは地元で「ハンマ」と呼ぶ山車の車輪の製法である。この車輪は山車の下に鉄筋を通して留めるもので、昔から変わらない伝統の木製車輪であるが、素材や製法はより耐久性を高めるために変化してきた。
水源佐原山車会館に展示されている古いハンマを見ると、おそらく地松だろうか。松科の木材を十文字に接合してその間に8等分した同材料をつないで接着して木ねじで留めている。木材同士もバラけないように召し合わせて継いでいる。直径は1m。戦前はこの太さの地松が入手できたので筒切りにして使い、使わない時期は泥田に漬けて保管していたという。その後、松の大木は入手困難となり、ケヤキの丸太を用いたが、それもしだいに減って高値となり、近年ではケヤキの集成材を用いるようになった。ケヤキ(欅)は昔から神輿や和太鼓に用いられる広葉樹の材料で硬い材質が特徴である。
ところがケヤキの集成材でも駄目だという声がいくつかの町から出てきた。何と接着剤で集成した箇所がはがれてくるのだという。ハンマ(車輪)の寿命は20年から30年というが、数年で隅が削れて変形するので、磨ぎ直すうちに直径1mが80cmまで減って取り換えとなる。なぜこれほどハンマが痛むかというと、山車は単にまっすぐに進むのではない。道路の角になると町内の下座連30人が力を入れて山車を回す。特に「のの字廻し」といって左前の車輪を軸として筆で「の」の字を書くように山車を数回転させるのが見どころで、最大4トンの重みが一個の車輪にかかるのだから傷みがはげしい。そうした曳き廻しを年2回繰り返しているうちに、30年はおろか10年持たせるのも難しいので丁寧なメンテナンスが欠かせないのだ。

[集成材がはがれない車輪]
「絶対にはがれない車輪にしてほしい」というゼネコンからの依頼で、埼玉県所沢市の建具屋「守谷建具店」が引き受けることになった。本誌では、その耐久性に優れた車輪づくりの製作過程を迫った。

[1. 材料の選定]
材料は製作マニュアルである「木製車輪製作組立完成図案」で指定がある。車輪の表(ホイール部分)には、欅の天然木・無垢の板目材、込み栓には赤樫芯材を用いる。
車輪のコア材(芯材)には、欅芯材又は赤樫芯材以上の硬木(海外材でも可とする)。比重はホワイトオーク(強度7~0.75)以上の比重。守谷建具店では表面材には、伝統のケヤキの無垢板目材を採用。芯材についてはアッシュの集成材を用いることになった。アッシュは北米東部やヨーロッパで産出する木材で強度はハードメープルと同等。衝撃に強いことから、プロ野球のバットに用いられることで知られる。比重はヨーロピアンアッシュで0.70で指定の比重をクリア。

[2. 表面の研磨]
材料はケヤキとアッシュで硬いので少しずつといでいく。丸ノコと昇降機でとって、ルーターでとるためのけびきを設けた。込み栓は引き戸につり車を埋め込む道具を応用して埋め込む。ケヤキを集めて仮木どりをする。36°ずつ一回りの寸法。平に削って一ヶ月養生。多いと1ミリ狂いが出てくるので、まっすぐに削り直す。パネルソーでとってワイドサンダーでベルトを上げながら2時間かけて研磨した後にNCルーターで丸く抉る。研磨してピッタリさせると空気を出すので、重ね置きする際にふわっと置けるのが特徴。

[3. 接着剤の選定]
コニシ提供のポリウレタン系接着剤を両面につけているのがポイント。ポリウレタン系は真っ平でない場合に補う接着剤。レゾル系よりも火に弱いので日本では建築用で使わないが、欧米では主流。発砲するのが特徴で衝撃に強い。

[4. 鑿でぶち割る]
水に一か月漬けた試験体で耐衝撃性を実験。黄色いのはポリウレタンではったケヤキ。ノミを打ち込むと接着面にノミが食い込んで止まってしまった。ノミ6発後にようやくはがれた。一方で片面塗りはノミ一発ではがれてしまうほど衝撃に弱かった。寸法をはかると水につける前と比べて0.5ミリずれている。

月間住宅ジャーナル
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木板とセメントによる放射線透過抑制ボード『ウッドミック』2015年2月号掲載

『ウッドミック』2015年2月号に掲載されました。以下に転載。

守谷和夫氏は建具職人の顔の他に、巷の発案・発明家としての顔も知られている。守谷さんが東電の福島原発事故以来取り組んでいる放射線遮蔽建材の開発状況についても知らされた。不燃建材開発の折に採用したホウ砂とホウ酸を活用してセメント等と反応させて固めた薄いボードがセシウム等の放射線を遮蔽するという事で、早く実用化して原発現場はもとより福島を始めとする住民の皆さんのお役にたちたいと一生懸命なのだ。守谷氏による試作ボードの公的試験結果も、特許申請資料として既に特許庁のホームページに掲載されインターネット上で公開されていると云うが、悲しいかな記者に専門知識が無く堂々と誌面掲載するには専門家の言質を必要とする為、今しばらく時間がかかりそうである。

さて従来、放射線透過抑制効果は鉛やタングステン等の重金属加工品類、コンクリート構成物体等、比重、質量、密度に起因する原理で実証されてきたそうであるが、守谷氏は石灰とホウ砂とホウ酸、水ガラスを混ぜて反応させ、安価で軽量な放射線透過抑制ボードを手作りして大学と公的試験研究機関で実証実験したところ、放射線透過抑制効果を発言する結果が得られ、新たな技術開発に繋がりそうだというのである。

要するに1.5mm厚の鉛板と守谷氏手作りの5.5mm厚ボードの放射線透過抑制効果が略同程度だという事で、新たな機能性を付与した住宅建材への展開が期待されるという話である。

表は守谷式モルタル(仮称)5mm厚さのガンマ線遮蔽率測定結果であるが、興味のある方は守谷氏(電話番号 042-948-2336 )に詳しく訊ねられたし…。

測定資料 線量率
( uSv / H )
遮蔽率
( % )
モルタル 8.99 ± 0.1 10.1

(安)

『ウッドミック』2015年2月10日発行 通巻383号、株式会社ウッドミック より一部改変のうえ転載(原文は次ページ以降参照のこと)