木づかいのコツ 不燃木材への挑戦 2 – 『月刊住宅ジャーナル』2019年05月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2019年05月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal-1905d1 )。

新連載 直伝 木づかいのコツ 不燃木材への挑戦 2

第6回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

 

[ 月刊住宅ジャーナル ]
工場の隣のご自宅が新しくなりましたね。

[ 守谷 ]
自宅をリフォームしてるんだ。寒い家だったから、ずいぶんあったかくなったよ。自分で作った建具も入れようと思ったんだけど、仕事の方が忙しくて少ししか入れられなかった。玄関のドアは一枚板で取っ手は木。取っ手は海でひろってきたもんだ。海辺に行くと本当にいい流木が落ちててドアの取っ手にぴったりのがあるんだ。もちろん全部タダだ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
工場も片付け中ですか。

[ 守谷 ]
30年ぶりの大掃除だ。入らない端材を片付けて、選びに来るお客さんが見やすいように無垢の一枚板を150枚並べている最中だ。
だが、守谷建具でもついに値上げすることになってしまった。プロ向けは今までと同じで変わりないが、単品注文が多い一般のお客さんには、相談料を設定することになった。一般のお客さんだと、相談する時間が製作する時間よりも長くなってしまうこともあるから、相談料を設けないことには、忙しくてどうにもならないんだ。

 

不燃・防蟻・放射線対策

[ 月刊住宅ジャーナル ]
本題に入ります。前回は、不燃木材の一例として、硫安を原料とした不燃材の特徴と注意点について紹介しました。その他の原料でもよいものはありますか?

[ 守谷 ]
不燃木材の原料としては、もう一つ、ホウ酸というのがあって、これは優れた特性をもっている。守谷建具でも実験をしてきたが、一つは不燃、もう一つはシロアリ対策、さらには放射線から身を守る、という3つの機能がある。ホウ酸は、住宅分野では、シロアリの予防用の薬剤として、住宅の基礎用のシロアリ対策の保護塗料に用いられたり、セルロースファイバーという新聞紙を原料とした断熱材にも含まれている。だから、シロアリの予防になるということは業界ではすでに広く知られている。
守谷建具で実験に特に力を入れたのは、放射線の遮断対策効果だ。ホウ素系物質は、原子力発電所の燃料棒を囲っている器にも用いられている。2011年の東日本大震災の後に、大学の先生に依頼して公的試験期間で実験してデータを取得した経緯がある。守谷建具で独自の配合を行って木材に注入すれば放射線による被爆を予防できる効果があることが分かった。試験ではプラスターボードを使ったが、後で外装用にコンクリート板や、釘打ちしやすいゴムとコンクリートを合成したボードを開発して、同等の結果が出せるようにした。このようにホウ酸を使えば、
国産木材を不燃、防蟻、さらには放射線の遮断機能を備えた多機能木材に変えることができる。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
住宅分野の業者の方は、ガンマ線(セシウム137の放射線)に関する知識はおそらくゼロかと思われますが、鉛重金属と同等の放射線遮蔽能力を持つ塗装建材の製造が可能であるということは画期的なことなので、ぜひ記憶にとどめておいてほしいですね。

 

製造コストの優位性

[ 月刊住宅ジャーナル ]
製造コストとしては、木工業者の方が作っても、採算のとれるものなのでしょうか?

[ 守谷 ]
製造コストについては、ホウ酸は粉体で1キロあたり200円ほど、ホウ砂は粉体で1キロあたり150円ほどになる。水を無料と仮定して製造コストを考えると、これを10%の濃度にすれば、15円ほどになる。7%にすればリッターあたり10円ほどで販売できる。守谷建具ではリッターあたり7%の濃度で、硫安やホウ酸で風合いの良い和紙に不燃化できる製法の開発に成功した。つまり、1000リットルで1万円、1立米で1万円と、低コストで製造が可能になる。

 

内装分野の課題 認定問題と白華現象

[ 月刊住宅ジャーナル ]
ホウ酸は、内装の不燃材の用途ではあまり用いられていないようです。課題は何でしょうか。

[ 守谷 ]
2011年に大臣認定の不燃材が試験データと異なる仕様で不適合になったことが影響としては大きい。認定を取り直しても、設計士から採用を断られるケースが多くなってしまった。
内装向けの用途が難しい理由としては、取り扱いが難しいこともある。まず水に溶けやすいことが最大の弱点だ。特に白華現象といって、木の表面にホウ酸が白く浮き出てくる現象が起きてくることがある。せっかく採用されても、これでクレームが出て部材交換になってしまったら、一発で取り消しになってしまう。
守谷建具では、白華現象の出ない製法の開発に成功している。水とホウ酸・ホウ砂の化合物を1:1に混ぜて80℃の熱湯にするときれいに溶ける。それをお湯にして使って、5〜6%に薄めて使う。化合物は濃度が20%になると個体になって、目詰まりを起こすようになる。これが白華現象の原因になるので、濃度を薄めて使うということが重要だ。

 

環境ホルモンの疑い?

[ 守谷 ]
それと、ホウ酸には、もう一つ気になる点がある。これは確かなデータではないようだが、内分泌かく乱物質の疑いがある。海外のニュースで以前そんな話を聞いたことがある。もし、天井に塗って白華現象が落ちこぼれてきたら、環境ホルモンが室内にまかれるというおそれもある。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
守谷さんからの指摘を受けて、編集部でも調べてみました。ホウ酸が、生殖機能に有害性をもたらすのではないかという懸念の一例としては、欧州化学機関(ECHA/European Chemicals Agency)という、欧州連合の専門機関が2010年3月に発表した高懸念物質の8種類の化学物質の一つとして挙げており、認可の必要な高懸念物質に指定した経緯があります。
内分泌かく乱物質の規制の一例としては、カナダ政府が2008年にポリカーボネート製ほ乳瓶の輸入・販売・広告を全面的に禁止する方針を打ち出したことがあります。
こうした海外での動向を受けて日本の環境省では、ホウ酸及びその化合物に対して生態、健康のリスク評価を公表しておりまして、詳しい実験データや海外での鉱山で働いている鉱夫からの聞き取り調査などをもとに、リスクは認められなかったことを示しています。したがって、海外では生態・健康のリスクが心配されているものの、国内の評価としては科学的知見としての有力な裏づけは得られていないという状況です。ホウ酸は大量に摂取するのではなければ毒性は基本的に低いそうで、例えて言うと塩のようなものだそうです。

 

製法について

[ 守谷 ]
ホウ酸、ホウ砂については製造特許はとっていない。公知の事実として紹介できる所は紹介するけど、詳しい製法は公開していないんだ。
特に放射線対策については、大規模な利用のために、政界のお偉方から紹介されて産業界を色々回って提案して歩いたんだ。でも、結果的には重金属なしではありえないという理由で残念な結果になってしまったんだ。今でも試験結果の原本は、守谷建具の知的財産として金庫に大切にしまっている。
もちろん住宅の健在にも応用できるし、本気で取り組みたい企業とは、技術提携したいと思っているよ。

 

試験結果の一部抜粋


左官試験体のガンマ線遮蔽率測定試験結果について 2012年9月20日
(中略)
外装仕上げ材として考えると、上記(2)試験型を15mm厚で左官した場合には、左官部分の鉛相当厚は約1.7mmとなり、下地PB(=プラスターボード)分を加えると鉛相当厚は約2mmとなる。また、左官厚が20mmの場合は、鉛相当厚は約2.5mmとなる。
すなわち、外装左官仕上げとして本配合の材料を使用した場合、15mm〜20mmの塗り厚で、鉛に換算して2〜2.5mm、ガンマ線遮蔽率が15〜20%の効果が得られることになる。
これは、滞在時間が長い住宅内にある人体の被曝量を考慮すると、一定の効果があるものと考えられる。

 


一枚板の建具の例(茅ヶ崎の家:先月号記事)

ホウ酸とホウ砂を煮て中性の液体にする(鉄などの物質の変化を防ぐため)

薬液をつけるとウレタンも燃えなくなった

塗料を塗った建材のガンマ線遮蔽試験の結果について

釘打ち用にゴムと合成したボードを開発

欧州化学機関(ECHA)のホームページ

ほう素及びその化合物の生態・健康リスク初期評価(環境省)

木づかいのコツ 不燃木材への挑戦 – 『月刊住宅ジャーナル』2019年03月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2019年03月号で紹介されました。以下に転載します。
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新連載 直伝 木づかいのコツ 不燃木材への挑戦

第5回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

参考データ

消防署によると、平成30年1月~3月における総出火件数は、1万1517件。うち建物火災が
6177件。建物火災による死者は1541人。建物火災の死者に占める住宅火災の死者の割合は、88.1%を占めている。建物火災の出火原因は、「こん
ろ」725件(11.7%)、「ストーブ」648件(10.5%)、「たばこ」589件(9.5%)。東京消防庁の調べでは2016年中のストーブ火災の
うち電気ストーブが76%を占めている。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
これまで2回にわたって木材の断面をナノレベルで観察し、優れた透明性があることを確認しました。こうした
木材の特性を活かして、例えば薬剤を注入して新たな機能を付与する化学処理木材への応用も可能と思われます。建具分野では、今、どのような処理木材が必要
だと思いますか。

[ 守谷 ]
今、一番必要なのは不燃材だろう。冬場は乾燥しているから、全国で住宅火災が起きている。しかも、電気ストーブの火災が多い。不燃材で衝立(ついたて)や柵を作ってストーブの回りに置けば、飛ぶように売れるかもしれない。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
ストーブの安全対策用の柵は、スチール製のものが主流ですが、もし、不燃材を使えば、木質インテリアとしてデザイン上の調和を図ることもできるようになります。
こうした木材製品を作る際に重要なことは何でしょうか。

 

大事なのはコスト

[ 守谷 ]
作ること自体は難しいことではない。不燃木材の基本的な製造技術は確立している。問題は、安くつくるための技術が確立していないということだ。だから、守谷建具では、安く作るための製造方法の確立に目下取り組んでいる。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
不燃木材は、まだ市場では普及しておらず、相場観が把握しづらいものがあります。参考になる価格を教えてください。

[ 守谷 ]
木材に塗布する不燃薬剤、これは原材料ではなく、誰でも使いやすいように気にしみ込みやすく製造されているプロ向けの不燃
木材用の塗料のことだが、平均的な価格としては、おおよそ1リットルあたり1500円ほどで取引されている。一見すると安いように思えるかもしれないが、
これをドラム缶ひとつ分(200リットル)作るとすると30万円になる。例えば杉の木材を1立米分(1000リットル)の薬剤の価格は150万円になる。
不燃材をつくるのには、かなりの量の薬剤を使うから、木材よりも薬剤の方が高いと言える。

 

原材料のいろいろ

[ 月刊住宅ジャーナル ]
安く製造するには、何から手を付ければいいのですか。

[ 守谷 ]
プロが本気でやるんだったら、まずは薬剤を製造するための原材料の選定からはじめたほうがいい。
不燃材を作るための原料にはさまざまなものがある。硫安、ホウ酸、アンモニア、グアニジン、タンニンなどがある。このうち、最も安価に入手できるのが硫安だ。肥料として広く使われているので、近くの農協で購入することができる。
うちの畑では、かみさんが野菜を作っていて、兼業農家だから簡単に購入できる。ホームセンターでも購入できる。
(※硫安=硫酸アンモニウム。代表的な窒素肥料の一つ。水を加えると吸熱反応を起こす。消火剤、保冷剤、冷却材としても用いられる。)
硫安を使った不燃木材の良いところは、肥料になるということがある。硫安はもともと肥料だから、不燃木材に使って、最後に廃材にした場合、粉砕して畑にまけば農業肥料として再生できる。

谷建具でも硫安を使った不燃材を作ってみたことがある。驚いたのは、1200℃で燃やした後の不燃材の表面がセラミック状になり通電性が出て、電気を通す
ようになったことがある。これは高温で硫安の成分がしみ出てきて、表面がガラス状になり、おそらく内部に炭素成分があるために通電性があったのだろう。
硫安の注意点としては、357℃で微量のアンモニアガスが発生することがある。ただし、木材に使う位なら濃度が薄いので人体に害はない。アンモニアは不燃薬剤の原料の一つでもあり、不燃材の中には硫安ではなく、アンモニアを混ぜているものもある。

 

ポイントは濃度

コストを下げるためには、原材料の選択もあるが、濃度ということも重要だ。
一般的に不燃木材につける薬液の濃度は20%ほどである。な
ぜ、20%なのかというのは、木材の性質と関係している。通常の自然乾燥の木材の含水率は15%から25%ほどとされていて、これが薬液のコストを下げる
には、不燃木材としての性能が落ちないように薬液の濃度を下げればいい。例えば、10kgで700円の硫安の場合は1リットルの薬剤を20%の濃度でつく
るのに、14円分の硫安を必要とするが、濃度を10%にすれば、わずか7円で済むようになる。
(次号につづく)

不燃材料に関する注意点

市販されている不燃材の多くは公的機関における実験データを取得しており、利用における性能と安全性が第三者に
よって証明されています。性能や安全性が証明されていない不燃材の取扱には十分注意してください。また、薬剤を木材に注入させるには、加圧注入などの専門
的な技術と装置を必要とします。不燃材の性能の確認のため、燃焼等の試験を作業所で行う際には、火の元、飛び火、可燃性物質の有無などに十分に注意して、
近隣の消防署に連絡をとって許可をとり、万全の安全対策をとる必要があります。

木づかいのコツ 木材の透過性を極める – 『月刊住宅ジャーナル』2019年02月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2019年02月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal-1902d1 )。

新連載 直伝 木づかいのコツ 木材の透過性を極める

第4回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 月刊住宅ジャーナル ]
前回は木材の赤身にある壁孔について顕微鏡写真で観察して赤身が腐りにくいということを実例を通して学びました。また、特殊な技術を使って壁孔を破る技術についての紹介がありました。

[ 守谷 ]
赤身を破るのには特殊な圧力窯が必要なんだ。1m×1m×4mのオートクレーブを手作りで1000万円で自社製作して実験して国際特許を取得した。でも特許を取得して製造ノウハウを保護しても、商品として普及しなければ、特許を維持するために更新料を払い続けるのが大変になってしまって、結局、特許が無効になってしまう。だから守谷建具では、今、申請中の特許もあるんだけど、残念だけど更新をあきらめたものもある。駄目だったもので分かりやすいものについては、もう一つの方向性、つまり「公知の事実※」として、みんなに知ってもらって、木育(もくいく、木の教育)に役立ててもらおうと思ってるんだ。半ば道楽ではじめたことだから、みんなに面白く見てもらえると思うよ。

( ※ 公知の事実 : 特許登録ができない、周知の事実のこと。メディアなどを介して広く閲覧可能な情報も指す。)

[ 月刊住宅ジャーナル ]
それで、今月号はまた新しい木が出てきました(写真1)。これは何でしょうか?

[ 守谷 ]
これはスギの透過性(ここでは液体流動性を指す)を調べるために、今から20年ほど前に奈良の林業試験場の伊藤さん(現在の奈良県林業技術センター)と実験した時の試験体だ。試薬の青い色がついている。時間が立って木の日やけが出てきているから少し見えにくいけどな。圧力をかけて青い試薬(メチレンブルー)を木材の小口から吸い込ませたんだよ(写真2)。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
よく見ると、まだらになっていたり、きれいに通っているものもあります。

[ 守谷 ]
まだらになっているのは、赤身にぶつかって水分が通らなくなった箇所だよ。小口から道管を通ってきた水は、板目の木材の木目にそって木材の断面にまできて染み出てくる。隣の木目が白太ならなら隔壁を通過するが、赤身だと、前回説明した壁孔(フタのついた孔)にさえぎられて隔壁を通過することができない。だから、まだらになっている。液体がきれいに通って全体が青く染まっているのは、赤身で白太が全くない木だ。たまにこういう気もある。
自分は、これを「透過性」と呼んだが、当時は学会ではあまり使われていない表現だった。「透過性」とはガラスが光を通すとか、放射能が通るという、分子レベル、原子レベルで使う語なので、植物が水を吸い上げる導管のスケールで使うのは適切ではないと思われていたのだろう。でも、スギの壁孔というのは電子顕微鏡で見ないと見れないくらいに微小なナノスケールだし、水を通すだけでなく、色んなものを通すから、自分はこれを「透過性」と呼ぶことにしたんだ。

(現在では学術論文でも木材の透過性という表現が見られる。)

[ 守谷 ]
これから空気を通してみる。樹種はスギ、ヒノキ、アガチスだ。片面の小口に家庭用の台所洗剤を塗る。反対側の小口にくぼみをつけて10キロの圧力で小口に空気を入れる。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
片面から泡が出てきました(写真6)。空気が通っている証拠です。

[ 守谷 ]
スギの白太はエアガン10キロで2mは空気が通るが、赤身は通らない。次は赤身にくぼみをつけれやってみよう。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
赤身は、10センチの長さの杉材でも通らないですね(写真7)

[ 守谷 ]
次はヒノキをやってみよう。ヒノキは赤身も通しやすいんだよ(写真10)

[ 月刊住宅ジャーナル ]
短いヒノキは赤身も通しました。長いヒノキの赤身には空気が通りにくいようです(写真9)。全体的に見るとヒノキはスギよりも材が緻密なせいか、杉の白太の方が空気が通りやすいようですね。

[ 守谷 ]
ヒノキの赤身はスギの赤身よりも腐りやすいと言える。だから、ヒノキの赤身は腐らないというのは大誤解だ。
次はアガチスだ(写真11)。あれ、これは通りにくいな(写真12)。通りやすいアガチスもあるんだけどな。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
樹種によって空気が通りやすい、通りにくいというのは、木材に水や空気などを通して加工する際の、歩留まり(生産性)に影響を及ぼしそうですね。杉の白太が一番歩留まりがいいようです。他にも通しやすい樹種はありますか?

[ 守谷 ]
早く成長する木(早成樹)には水を通しやすいのが多い。木材用だとラジアタパインやサザンパインは、すごく水や空気を通しやすい。化学木材加工、不燃木材加工にはラジアタパインは適している。杉、ヒノキをナノレベルで加工するには、真空に近い状態の中で加圧しなければならない。
それと腐りやすい木は通しやすい。腐りやすいということは腐朽菌がつきやすいからキノコの栽培に向いている木だということだ。クヌギとかナラとかは、シイタケのほだ木にするだろう。ああいう木はすごく水を通しやすい。
誰でも簡単にできるから自分でも実験してみるといいよ。(次号につづく)


今回の実験結果

  • 長い杉材(厚 5mm×幅 15cm×長 70cm)
    白太は10キロのエアガンの空気が通った。
    赤身はエアガンの圧力を20に上げても通らなかった
  • 短い杉材(長 30cm)でも、赤身は通らない
  • 長い桧材(長 70cm)は白太のみ空気が通った
    赤身は空気が通らなかった
  • 短い桧材(長 30cm)は、赤身でも空気が通った
  • アガチス(長 40cm)は、赤身も僅かに空気が通った

写真 1 – 杉の透過性を実験した際の試験体

写真 2 – 青いのは薬液が浸透した白太
茶色いのは薬液が浸透しない赤身

写真 3 – 反対側の小口の白太にくぼみを付ける

写真 4 – 家庭用洗剤を杉の小口に塗る

写真 5 – くぼみにエアガンを当てて噴射

写真 6 – 反対側の小口の白太から泡が出てきた

写真 7 – 赤身は短い材でも空気が通らない

写真 8 – 次はヒノキ 赤身と白太に印をつける

写真 9 – 長い桧材は白太だけ空気が通った

写真 10 – 短い桧材は赤身も空気も通った

写真 11 – アガチスも通りやすいそうだが…

写真 12 – ほんの少しだけ泡が出てきた

木づかいのコツ 杉の赤味をナノで観察 – 『月刊住宅ジャーナル』2019年01月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2019年01月号で紹介されました。以下に転載します。
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新連載 直伝 木づかいのコツ 杉の赤味をナノで観察

第3回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 月刊住宅ジャーナル ]
早いものでもう年末です。お仕事の方はどうですか。

[ 守谷 ]
今、今、保育園のドアを作りおわったところだよ。
珍しいイチイの大木が手に入ったから、今からオブジェも一緒に作って納品するところだ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
これまで2回にわたって連載を続けてきましたが、守谷さんの説明には、木材の熱質量がいくつであるとか、木の比重がいくつであるとか、木材を扱っている業者さんでも難しい説明があることに気づきました。今月号からいよいよ”守谷木材学”の本論に入るべく、ぜひとも教えて下さい。

[ 守谷 ]
俺は中学出てすぐに建具の修行したから、自然現象と実験結果しか説明できないが、木の熱質量がいくつという話を聞いても学会ではわかるけど、日常生活で使わない表現だからピンとこないかもしれないな。でも、例えば、何で40℃のホッカイロで低温やけどをするのに、100度の木のサウナの内にいてもやけどをしないのかとか、そういう疑問は、熱質量を使わないと説明ができないんだ。
木を扱っていると、うまく説明ができないことはたくさん出てくる。だから、俺は木材だと細胞レベルどころじゃなくて、もっと小さなスケールで説明するんだ。
考えるヒントになったのは、この写真だよ。1098年に日本で初めて撮影した。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
丸いモノが見えます。これは木材の細胞ですか?

[ 守谷 ]
いや、細胞よりももっと小さい。杉の心材部、つまり赤身の部分の細胞の壁孔を電子顕微鏡を使って観たものだ。1998年に企業と開発をした時に電子顕微鏡で撮影したんだ。
拡大した写真でよく見ると壁孔に膜がついてふたがされているのが分かるだろ。この壁孔の膜は、赤味にはあるが白太(しらた)にはない。この膜を学会では”弁がふさがっている”という説明をしている。弁と言えば心臓のように閉じたり開いたりするもんだが、実際には、そう簡単に開くものではないんだ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
この細胞壁孔と膜は、木材の性質とどのような関係があるのですか。

[ 守谷 ]
木が腐らないことと関係している。
杉の丸太の断面を見ると、まわりの辺材は白くなっていて、中心の心材は赤くなっているだろ。白いのを白太と読んで、赤いのを赤味と呼ぶ。
杉の丸太を長い年月、草むらに放置すると、まわりの白太が全部、腐朽菌やシロアリに食われてしまってなくなって、心材の赤味だけが残る。
これをナノレベル(注1)で説明すると、赤味の細胞の壁孔がふたで閉じられているので、次の細胞に空気がいかない。だから腐らないので残るという説明になる。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
つまり、赤味は赤色、白太は白色という風に、色で区別するのではなくて、ナノレベルで違いを区別すると、木材の腐朽の原因をより科学的に説明することができるんですね。

[ 守谷 ]
木材の腐る原因には、空気、水、温度の3つがあると考えればいい。
このうちのどれか一つがなくなると、木材は腐らなくなる。例えば、古代杉といって、長い間、噴火の火山灰に埋もれて地中に埋もれていた杉があるだろう。なぜ古代杉が残るかというと、空気のほとんどない状態で埋うまっていたから、木が腐らなかったというわけだ。同じように、水がなければ、あるいは温度がなければ、木は腐らなくなる。
杉の赤身がなぜ腐らないかというと、赤身の細胞壁孔が膜で閉じられているので、空気が通らない。だから腐らないんだ。
この性質を利用すると、いろんな木材の開発ができる。この杉材の細胞壁孔の写真は、杉を使って人口の琥珀を作り出す時に撮影した写真だ。この技術でアメリカとドイツで国際特許を取得したんだ。
赤身を高温150℃で真空状態にしてから釜を空けて空気を入れ、瞬時に常気圧に戻すと、細胞壁孔の膜が敗れる(写真)。この孔の処理を施して(写真)、孔の中にモノを入れると全く新しい材料ができるというわけだ(注2)。

注1:
ナノメートル(nanometre、記号nm)は、国際単位系の長さの単位で、10億分の1m 1nm = 0.001µm(マイクロメートル)

注2:
杉材の壁孔の走査型電子顕微鏡写真(1万分の1スケールで撮影したものを拡大)。杉材の心材部を10x20x5mmほどの寸法にカットして、接線断面から軸方向の細胞の有緑壁孔を観察。試料を金蒸着し、二次電子像を観察。


イチイの銘木

杉材の細胞壁孔

杉の赤身の細胞壁孔の拡大写真 壁孔は膜で閉じられている

杉の赤身の細胞壁孔の拡大写真 壁孔は膜で閉じられている

草むらに30年放置すると赤味は残る

破って膜の孔に処理をした状態

細胞壁孔の膜が破れた状態

木づかいのコツ 交差木材の構造部材 – 『月刊住宅ジャーナル』2018年11月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2018年11月号で紹介されました。以下に転載します。
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新連載 直伝 木づかいのコツ 交差木材の構造部材

第2回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 月刊住宅ジャーナル ]
前回は、木材を直行させた際に生じる変形の問題とその対策について、最新の木材であるCLTや無垢材の玄関ドアを例に出しながら論及しました。

[ 守谷 ]
ところで反響はどうだったのかな。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
おかげさまで好評です。初回からアクセル全開じゃないのかというご意見まで頂きました。

[ 守谷 ]
最近は色々縁があって、大手ゼネコンの設計担当者や材料仕入れの責任者から相談を受けることがあってCLTの話題にもなるんだよ。今まで木造の設計をしたことのない設計者からすると木材なのにCLTにすると重量がえらく重くなって、その割には横の強度が弱くて使いにくいと困っているし、俺からすれば木材の変形に対する対策が納得いかないんだ。
そこで、木材を交差させても、変形にしっかり対応できる構造部材を守谷建具で開発した。この構造体の体積の9割は空気だ。大手ゼネコンにはこんな壁や床を使えば大丈夫だと勧めている最中だ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
これは一見すると、組子(くみこ)のようにも見えます。いや、組子よりもずっと大きいですね。

[ 守谷 ]
合板に張って、木質の構造体にするものと、コンクリートに用いるものと二つを用意した。これは合板パネルとして用いるものだ。
普通に木材を90度に直交させて合板に張ると、水分を吸って木目方向が出っ張ってくる。サブロク(3尺×6尺)サイズなら3mmから4mmは木目方向が出てくる。そこで角度を変えて、45度よりも鋭角で斜めに交差させる。こうすると木材が外に伸びてこないようにすることができる。こうすれば強度が上がり、端材を利用することもできるようになる。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
筋交いや組子といった在来工法や伝統建具で用いられてきた材料にもこうした木材の変形に対応する知恵や工夫が隠れていたんですね。

[ 守谷 ]
柱や梁だってそうだ。今じゃ乾燥剤が増えて背割り材を見なくなったが、背割り材だって柱材が割れるのを防ぐためにはじめから割れをつけることで、木が水分を出して割れないように、はじめから遊びの余地をつけてたわけだ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
背割り材を上手くに使える大工さんや設計士さんが少なくなっていることは残念ですね。

[ 守谷 ]
この合板パネルを製作する際の注意点としては、耐水性酢酸ビニールの接着剤を密着させることだ。表面を蛇腹状に研磨することにより、接着剤表面積がおそらく想像以上に大きくなり、接着剤に柔軟性が出てくる。ワイドサンダーで40番から60番くらいの面がいい。守谷建具では内部建具の杉・桧の集成でもこうやって加工してるよ。外の畑に5年くらい放置しても変化はないよ。
それから両面に接着剤を塗ってから貼る。鋭角の巾剥(はばは)ぎ材と同方向になるので接着剤の表面の疲労が起きにくくなる。CLTの理想の組み合わせは、鋭角の巾剥ぎ材を交互に接着することだ。他にも様々な方法があるが、自分の経験からが最善だと思う。こうすると水に1ヶ月漬けてからハンマーで叩いてもはがれなくなる。
前回も説明したように最近の集成材は、木ではなく接着剤に無理を負担させているから、理論的には航空機の部品の金属疲労のように木材との接着面に疲労が起きるはずだから、使う側は注意することが重要だ。
数年前に山車の車輪を製作したことがあって、ワイドサンダーで表面を研磨して耐水性のポリウレタンの接着剤を使って貼って、試しに川の中に一ヶ月漬けてみたら変化はなかった。詳しくは守谷建具のホームページでU-tube(ユーチューブ)の動画で掲載しているので観てほしい。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
こちらの構造体は何でしょうか。

[ 守谷 ]
これはビルのカーテンウォールに使うコンクリートと組み合わせた構造体だ。これは守谷建具と富士セメントで共同開発した。鉄筋コンクリートじゃなくて「木筋コンクリート」という名称だ。特許を出願する際に、弁理士から聞いた話だが、戦争中には鉄筋が不足していて、鉄筋の代わりに竹を入れたコンクリートの建築物で特許をとったものがあったそうだ。それを「竹筋コンクリート」と呼ぶなら、これは「木筋コンクリート」になる。
コンクリートと木というのは、異素材だと思うかもしれないが、コンクリートは強アルカリ性なので、木はアルカリが入ると強くなる。
コンクリートを木材を密着させるために自動かんな盤のような凸凹のローラーを使って木ごろし( * )をする。こうすると水分を吸いやすくなる。コンクリートの水分を吸うことにより、凹凸になり、密着させるんだ。この試験体では鉄筋も一緒に入れて90度に曲げることで強度を出している。中芯が鉄で外側が木材だから、鉄筋が膨張することによる爆裂(パンク)が置きにくい。
メリットとしては、鉄筋よりも軽量化できることだ。特に木材を金属とコンクリートの代用として使用できるようになる。次世代の木材の応用技術開発になるというわけだ。

* 木ごろしとは?
木材を叩くことなどにより、木材の性質を変えることを木ごろし(木殺し)と呼ぶ。守谷建具では、木製ドアを製作する際に、木材の接合部を金槌で叩いて木ごろしをすることで割れを少なくするなど、様々なきごろしをする。


材料を斜めに交差させた構造体(合板パネル)

斜めから見たところ

杉桟を斜めに交差して貼る

守谷建具の畑 木材や建具をあえて屋外曝露する

背割り材

背割り材を使った躯体

筋コンクリートを共同開発

自動かんな盤の送りローターで木ごろしする