守谷インテリア木工所が住宅ジャーナルウッドテクノロジー(株式会社エルエルアイ出版) 2025年04月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( jwt_2504d1.pdf )。
直伝 木づかいのコツ 屋外での木材の利用と塗装2
守谷和夫 (有)守谷建具店 守谷インテリア木工所
[ 守谷 ]
庭の前を流れる河原を歩くと腐った土止め板だらけだ。これは3〜4年前に設置したばかりなんだが、とんでもないことに松の木を土止め板に使っている。見ての通り、白太(辺材)から腐っている。
[ JWT ]
腐った木をじっと見ていると気持ちが何かすさんできますね。
[ 守谷 ]
松の木というのはこういう所に使うもんじゃないんだ。昔は家の梁とかに使っていたんだが、今じゃ使い道がないんだろうな。そっちの方に見えるのは杉の丸太だ。こちらは、3〜4年経って小口が割れているが、赤身(芯材)はまだ腐っていない。
[ JWT ]
この丸太は確かに大丈夫ですが、向こうの杉の杭は白いキノコがついて腐っています。なぜでしょうか?
[ 守谷 ]
あれは桜の並木のそばにあるからだろう。春から秋の落葉まで桜の葉が茂って日陰になるから紫外線による除菌効果が落ちて腐りやすくなると思われる。
[ JWT ]
杉(シダー類)は、北米大陸では西海岸とか海岸の山脈沿いに生える木です。杉も松も海沿いの木と言えますが、どうして持ちが違うんですか。
[ 守谷 ]
それは独自に進化したからだろう。松は松茸が近くに生えるように腐りやすくできている。広葉樹も腐ってキノコが生えるが、再生力の強い木が多い。例えば楢の木は、切るとひこばえが生えてくるように再生する力が強い。杉は腐れて何十年経っても赤身の芯だけを残そうとするが、一度切ったら再生しない。それは特定の環境で種を残すために進化したためだろう。木材を選ぶということは、使用する環境で固有の進化を遂げた木材組織が生き残れるかどうかを考えることだ。
木材を細胞レベルで考える
[ 守谷 ]
杉の丸太は屋外に放置すれば、雨水を通して腐るが、赤身だけは腐らない。その理由は、電子顕微鏡を使って細胞レベルで見ると、杉の赤身は水を通さないように水を通す組織に蓋がされているためだ。そこで、この杉の組織を壊して不燃用の薬剤を注入するための実験を27年前に行って成功した。加熱減圧処理をかけることで、設定温度130度以上で水蒸気爆発を起こすことを実験で確かめたんだ。
[ JWT ]
今日ではバイオコークスなど植物の組織を大きく変えた素材も出てきましたが、石炭問題もあってバイオサーマルの用途は伸び悩んでいます。また、建築基準法では、燃えないことよりも避難経路を確保することに重点が置かれるようになり、薬剤を注入した不燃処理木材は幅広い用途での普及の目途が立ちにくくなっています。川沿いの丸太は、コールタールを塗るだけでも長持ちするんじゃないですか?
[ 守谷 ]
コールタールが普及していた半世紀前と現代のどこが違うのかというと、木材の組織そのものは何も変わらないが、お客さんの趣向が変わったということだ。ほしい素材はコールタールの対極にあるモノで、原料にはまず脱化石燃料という条件がある。それに石油系ではなく耐水性を備えた水性系と植物油系が求められている。色はクリア(透明色)塗装で、とにかく色のついているのはダメなんだが、色を付けないと紫外線による劣化が進みやすくなる。かといって欧米から輸入された自然系塗料だと日本の高温多湿異常気候に合わず、カビにも弱い。そこで仲間と独自に開発したのが「MTウッドコート」という塗料だ。この塗料は、3センチ角の木辺サンプルを用いて性能試験を行った。温度26℃±2℃、湿度95〜99%を保った恒温器内で、蓋をしたシャーレ(容器)に木辺サンプルと5種類のカビ供試菌を入れて、7週間経過してもカビを抑える効果があることがR&Dセンターの実験で確かめられている。「MTウッドコート」(仮称)は、下塗り用の「MTウッドコートU」と二度塗り用の「MTウッドコートT」の二種類の塗料を使う。使い方のコツとしては、粗いサンドペーパー(80〜100番)で表面をザラザラにする下地調整をしてから塗ることだ。そうすると塗料がしみこみやすくなる。柾目も板目も小口と木端の角部では必ず面とりをしてから塗装することがコツだ。サンドペーパーで粗びかせると、それだけ塗料を吸い込む面積が増えるので耐久性に大きな影響が出てくる。